たらい
「たらい」は,
盥,
と当てる。「盥」(カン)の字は,
「会意。『臼(両手)+水+皿』。両手に水をかけ下に器を措いて水を受けるさま」
で,
手を洗う,
手に水を灌ぐ,
意とある。転じて,
手を洗うのに使う器,
「古くは,洗った手をふって自然にかわかすのが習慣であった」
とある(『漢字源』)。「濯熱盥水」(熱ヲ濯ヒテ水ニ盥ス),「盥耳(カンスイ)」(=洗耳,耳を洗う)という。いわゆる,
たらい,
つまり,洗濯用の桶,
の意で使うのは,我が国だけである。ただ,「たらい」は,
テアライの約,
とある(『広辞苑第5版』)ので,昔の人は,上手い字を当てたものだと感心する。
タは,
手の古形,
で,
手折る,
手枕,
手なごころ,
手挟む,
等々の複合語に残る。
タ(手)アラヒ(洗)の約,
で落着だろう。。
『大言海』に,
「水,又は湯を盛りて,手,又は面を洗ふに用ゐる扁(ひらた)き噐。左右にむ,持つべき二本づつの角の如きもの横出す,洗濯だらひなど出来て,これに別つために,角だらひの名あり。」
とある。『岩波古語辞典』にも,
「水や湯を入れて,手や顔を洗うための噐。歯黒や口を漱ぐためなどにも使った。普通,円形の左右に二本ずつの角のような取手があるので『つのだらい』ともいう」
とある。その意味で,本来,「たらひ」は,
盥,
の字と同じ意味であった,ということになる。
多くは漆塗りなので,
「盥は、手洗いや剃髪の際に使用される手水道具として日々の暮らしに欠かせない調度であるが、基本的に消耗品であったせいか、遺例は少ない。胴に二本の角状の柄が一対ずつ付くところからその名がある。黒漆の地に、金の平蒔絵で、菊・桔梗・萩・芒などさまざまな秋草を描いた、いわゆる高台寺蒔絵の典型を示す。角は長く、重心、高台ともに高い。四本の角の基部と先端には金銅製の金具を付す。この角盥は、簡素な装飾であるものの、製作当初の瀟洒な趣を感じられる作品であろう。」(『神の宝の玉手箱』サントリー美術館、2017年)
とある(https://www.suntory.co.jp/sma/collection/gallery/detail?id=13)ように,今日の凝る物は,もはや美術品である。
耳盥,
とも言ったらしい。「和漢三才図絵」には,
「盥,音管,和名,多良比,盥。洗手器也。字从臼水臨皿也」
しかし,転じて,
「桶の如くにして扁く,湯水を盛りて物を洗う器」
に転じ,「和名抄」には,
「盥,多良比,俗用手洗二字」
「名義抄」には,
「手洗,たらひ」
となっている(『大言海』)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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