2019年01月08日
うえ
「うえ」は,旧仮名では,
うへ,
だが,『岩波古語辞典』に,こうある。
「古形ウハの転。『下(した)』『裏(うら)』の対。最も古くは,表面の意。そこから,物の上方,髙い位置,貴人の意へと展開。また,すでに存在するものの表面に何かが加わる意から,累加・つながり・成行きなどの意などの意を示すようになった」
とある。「うえ」は,
上,
と当てるが,「かみ」と訓ませると,また意味が変わる。「うへ」の古形,「うは」は,上記の意味の流れからか,
上,
表,
を当て,
表面,上部,既に有るものに後から加わったものなどの意,
とある。「うは(わ)」は,
上顎,
上荷,
上書き,
上回る,
今日複合語として残る。漢字「上」(漢音ジョウ,呉音ショウ)は,
「指事。ものが下敷きの上にのっていることを示す。うえ,うえにのるの意を示す」
ので,和語「うえ」元来の意味と重なる。
「うへ」の「へ」について,こういう説がある。
「接尾詞としてほかの言葉にともなわれ、場所や位置についての観念をあらわす『へ』…たとえば『みずべ=水辺』とか『いそべ=磯辺』という言葉の中にあらわれる『へ』…。日本語には、自分の今いるところを中心とした時空上の位置取りを、この『へ』を使って表現しているものが多い。
まず空間いついてみると、『まえ=前』、『うしろ=後』、『うえ=上』などがそれである。『まえ』はもともと『まへ』といった。『まへ』とは目の向いている方角をさしているのである。『うしろ』は『しりへ』が転化した形である。『しりへ』とは尻のついている方角という意味である。
『うえ』は『うへ』だが、これの原義はいまひとつ分らない。筆者などは、『うく=浮く』と関連があるのではないかと推測している。浮くとは上の方向への移動を示唆する言葉である。しかして『うく』は『う』と『く』からなっている。『く』はほかの言葉について動作を表す接尾詞であることから、『う』が頭の上の方角をさしていたと考える理由はある。」
と(https://japanese.hix05.com/Language_1/lang127.he.html)。つまり,
「う」+接尾語「へ」
といのである。この説が多いらしく,『日本語源広辞典』も,
「『ウ(浮く)+へ(方角)」です。物が浮く方向をいみします。」
としているのだが,この「へ」と「うへ」の「へ」とは別語らしいのである。
「方向・方面を表す『へ』と関連づける説が多いが,この語は上代特殊仮名遣いでは甲類音であって,乙類音の『うへ』の『へ』とは異なる」
のである(『日本語源大辞典』)。
上代特殊仮名遣意とは,
「上代日本語における『古事記』・『日本書紀』・『万葉集』など上代(奈良時代頃)の万葉仮名文献に用いられた、古典期以降には存在しない仮名の使いわけのことである。
名称は国語学者・橋本進吉の論文「上代の文献に存する特殊の仮名遣と当時の語法」に由来する。」
もので,
「仮名の50音図でいうイ段のキ・ヒ・ミ、エ段のケ・ヘ・メ、オ段のコ・ソ・ト・ノ・(モ)・ヨ・ロの13字について、奈良時代以前には単語によって2種類に書き分けられ、両者は厳格に区別されていたことがわかっている。」
こと(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8A%E4%BB%A3%E7%89%B9%E6%AE%8A%E4%BB%AE%E5%90%8D%E9%81%A3)で,具体的には,
甲類 a・i・u・e・oの母音が使用されているもの
乙類 ï・ë・öの母音が使用されているもの
を指す(http://kojiki.imawamukashi.com/06siryo/06tokusyu01.html)。
つまり,接尾語「へ」は,「fe」,「うへ」の「へ」は「fë」なのである。
とすると,
「浮く」+接尾語「へ」
という説は採れない。『岩波古語辞典』の「へ」は,
辺,
端,
方,
を当てて,「fe」とし,
「最も古くは,『おき(沖)』に対して,身近な海浜の意。また奥深い所に対して,端(はし)・境界となる所。或るものの付近。またイヅヘ(何方)・ユクヘ(行方)など行く先・方面・方向の意に使われ,移行の動作を示す動詞と共に用いられて助詞『へ』へと発展した」
とあり,意味からも,「うへ」とは外れているのではないか。『岩波古語辞典』には「へ」で,
上,
と当てる言葉が載り,「fë」と訓ませ,
「ウヘのウが直前の母音に融合した形。本来,表面に接するところの意」
と載る。
「『へ(辺)』とは,奈良時代には別音の別語であった」
とある。辺の「へ(fe)」と上の「へ(fë)」とは,「へ」となっても別語なのである。
とすると,『大言海』も挙げる,
浮方(うきへ),
や
うへ(浮方),
や
うへ(頂上,頂方),
等々とする説は捨てるほかない。言葉の意味から見ると,『岩波古語辞典』の,
ウハの転,
つまり,
後から加わる意,
とするより選択肢はない。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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