「霜」は,いうまでもなく,
「0℃以下に冷えた物体の表面に、空気中の水蒸気が昇華(固体化)し、氷の結晶として堆積したもの」
である(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9C%9C)。
「霜」(漢音ソウ,呉音シュウ)の字は,
「会意兼形声。『雨+音符相(たてにむかいあう,別々に並び立つ)』。霜柱がたてに並び立つことに着目したもの」
とある(『漢字源』)。これだと,「霜」ではなく,「霜柱」の意になる。しかし,意味は,
しも,
空気中の水蒸気が夜間地上で凍ったもの,
とある。「霜」は,
「地中の水分が凍ってできる霜柱(しもばしら)とは異なる。」
とある(仝上)のだが,あるいは,霜柱と霜とは厳密に区別しなかったのかもしれない。『日本語源広辞典』は,
「雨(水蒸気)+相(バラバラにわかれる)」
とし,別に,
「形声文字です(雨+相)。『天の雲から水滴がしたたり落ちる』象形と『大地を覆う木の象形と人の目の象形』(「木の姿を見る」の意味だが、ここでは、『喪(ソウ)』に通じ(同じ読みを持つ『喪』と同じ意味を持つようになって)、『失う』の意味)から、万物を枯らし見失わせる『しも』を意味する『霜』という漢字が成り立ちました。」
とする説(https://okjiten.jp/kanji1974.html)もある。これは,「相」(呉音ソウ,漢音ショウ)の字の解釈の違いらしい。『漢字源』は,
「会意。『木+目』の会意文字で,木を対象にいて目でみること。AとBとが向き合う関係を表す。」
とし,
「爽(ソウ 離れて対する),霜(ソウ 離れて向き合うしも柱),胥(ショ)はその語尾がてんじたことばで,相と同じ意」
とする。霜柱と霜の混同は気になるが,『漢字源』に従っておく。
『岩波古語辞典』には,「しも」の「も」は,
「上代moかmöか不明」
とある。あるいは,「しも」という言葉自体が,「霜」と一緒に入ってきたのかもしれない,と思いたくなる。
『大言海』は,
「万物萎む意なりと云ふ。凍(し)みに通ず」
とする。『日本語源広辞典』も,
「シミ(凍み)の音韻変化,シミ」
とし,異説として,
「『シ(密生)+モ(付着する)』が語源で,水分の結晶が密に付着するものがシモだという説もあります」
とする。
『日本語源大辞典』は,
草木がシボム(萎)ところから(名言通・和訓栞・言葉の根しらべの=鈴木潔子),
シモ(下)にあるところから(日本釈名・滑稽雑誌所引和訓義解・類聚名義抄・柴門和語類集),
シロ(白)の義(言元梯),
シはシロ(白),モはサムイ(寒)の意という(日本釈名),
シミシロ(凍代)の義(日本語原学=林甕臣),
シマウカレ(気渾沌)の約(松屋棟梁集),
等々を載せ, 『語源由来辞典』(http://gogen-allguide.com/si/shimo.html)も,
しも(下)にあるところからとする説,
草木がしぼむところから「しぼむ(萎む)」の意,
「しみ(凍み)」に 通じる,
「し」が「白」,「も」が「寒い」もしくは「毛(もう)」の意味,
等々挙げただけで,「語源は不明」とする。
僕には,意味ではなく,現象を表現した「「凍み」(『大言海』)が一番気になる。屁理屈よりは,その現象を端的に言い表わすとすれば,「凍み」だろう。
「しみ」は,『岩波古語辞典』に,
「凍りつくような激しいものが冷え縮む意。『しみこほり』という複合語で使われることが多い」
とある。『大言海』は,
「寒さ染む意か,又締むる意か」
とある。これが,
simi→simo,
と転嫁したと考えるのが,言葉の意味からも,僕には妥当に思える。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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