「しむ」に当てるに,
染む,
沁む,
滲む,
浸む,
と,使い分ける。漢字の違いは,「しみじみ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/463638912.html?1547325377)で触れたように,「染」(セン,漢音ゼン,呉音ネン)の字は,
「会意。『水+液体を入れる箱』で,色汁に柔らかくじわじわと布や糸をひたすこと」
で,染める意である。「沁」(シン)の字は,
「会意兼形声。心は,心臓を描いた象形文字で,細い脈のすもずみまで血をしみ通らせる意を含む。沁は『水+音符心』で,水がすみずみまでしみわたること」
で,しむ意である。「滲」(シン)の字は,
「形声。『水+參』」
で,「參」(漢音サン,呉音ソン)の字は,
「象形。三つの玉のかんざしをきらめかせた女性の姿を描いたもの。のち彡印(三筋の模様)を加えて參の字となる。いりまじってちらちらする意を含む」
で,まじわる,いりまじる,意である。「浸」(シン)の字は,
「会意兼形声。右側の字(音シン)は,『又(手)+ほうき』の会意文字で,手でほうきを持ち,しだいにすみずみまでそうじをすすめていくさまを示す。浸はそれを音符として水を加えた字で,水がしだいにすみずみまでしみこむこと」
とある。「染」の字に近い。
『広辞苑第5版』は,「しむ」を,
「染色の液にひたって色のつく意から,あるものがいつのまにか他の物に深く移りついて,その性質や状態に変化・影響が現れる意」
とある。だから,
色や香り,汚れが付く→影響を受ける,
意へと広がり,さらに,その価値表現として,
感じ入る,親しむ→しみじみと落ち着いた雰囲気→気に入る→馴染みになる,
の意に広がり,その価値が変われば,
こたええる,
痛みを覚える,
という意にまでなる。端に物理的な色や香りや汚れが付く状態表現から,そのことに依って受ける主体の側の価値表現へと転じた,ということになる。だから,出発は,
染む,
と当てた,染まる意である。『岩波古語辞典』には,「染み」「浸み」と当て,
「ソミ(染)の母音交替形。シメヤカ・シメリ(湿)と同根。気体や液体が物の内部までいつのまにか入りこんでとれなくなる意。転じて,そのように心に深く刻みこまれる意」
とある。『日本語源広辞典』も,
「ソム(染)の母音交替形です。シム,シミル,シメルなどと同源」
とする。
「しみ」は,
しめ(湿)し,
と同根,つまりは,
ぬらす,
のと同じ意であった,と見られる。『日本語源大辞典』も,
ソムに通じる(日本語源=賀茂百樹),
としている。他にも,
シム(入る)の義(言元梯),
物の中に入り浸る意のシヅクとつながりがあるか(小学館古語大辞典),
説もあるが,「しづく」(沈)について,『大言海』は,
「沈み透くの意かと云ふ」
とし,
「水の中に透き映りて見ゆ」
の意とする。誌的だが,意味が少しずれていく気がする。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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