2019年01月18日

こえ


「こえ」に当てる,

声(聲),

の字(漢音セイ,呉音ショウ)は,

「会意。声は,石板をぶらさげてたたいて音を出す。磬(ケイ)という楽器を描いた象形文字。殳(シュ)は,磬をたたく棒を手に持つ姿。聲は『磬の略体+耳』で,耳に磬の音を聞くさまを示す。広く,耳をうつ音響や音声を言う。」

とある(『漢字源』)。ひろく,

「人の声,動物の鳴き声,物の響きを含めていう」

とある(仝上)。「音声」である。

『岩波古語辞典』をみると,和語「こゑ」は,

人や動物が発する音声,

を指した。しかし,漢字「声」には,

物音,

をも指す。「声」を当てたせいか,

「物の音」

の意味をも持つようになる。

「漢字『声』の用法に引かれたものという。平安時代以後に多い」

とある。和語には,

ね,
おと,

があり,「おと」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/457490864.html)で触れたように,

「離れていてもはっきり聞こえてくる,物のひびきや人の声,転じて,噂や便り。類義語ネ(音)は,意味あるように聞く心に訴えてくる声や音」

とあり(『岩波古語辞典』),「ね」と「おと」は,「音」の字を当てても意味が違う,とする。「ね」は,

「なき(鳴・泣)のナの転。人・鳥・虫などの,聞く心に訴える音声。類義語オトは,人の発声器官による音をいうのが原義」

とあり,「おと」は「物音」,「ね」は,「人・鳥・虫などの音声」という区分けになるようだ。「ね」には,人側の思い入れ,感情移入があるので,単なる状態表現ではなく,価値表現になっている,といってもいい。

だから,「こえ」は,音の意はなかったものに,「声」の字の意味に引きずられて,物音をも指すようになった。だから,

鐘の音(ね),

とはいっても,

鐘の声,

とは言わなかった,しかし,

祗園精舎の鐘の声(こえ),
諸行無常の響きあり,

というようになった。

『大言海』は,「こゑ」は,

「言合(ことあへ)の約転などにて(事取(こととり),ことり。占合(うらあへ),うらへ),發して言語となる意にてもあるべきか」

とちょっと自信なげに見える。『日本語源大辞典』は,「発して言語となる」大言海説以外に,

コトヱ(言笑)の義(名言通・和訓栞),
すべての物は声で聞き分けられることから,コトワケ(言分)の反(名語記),
キコエの上略(和句解・日本釈名),
コエ(音)はキコエ(聞得)の上略,またコヘ(声)和訓はコエ(柴門和語類集),
コエ(呼好)の義か(和語私臆鈔),
気の発・放・漂を核義とするワ行活用の原動詞カウがカウ→コウ→コワとなり,名詞語形のコヱを生じさせた(続上代特殊仮名音義=森重敏),

等々を載せるが,単純に,

「語源は,『コヱ』(こゑ)です。『動物や人の発生音による,擬声』が語源に関わっていると思われます。コワは,kowe kowaの音韻変化です」

とする(『日本語源広辞典』)のが正解なのではないか。「こえ」は,そのように聞えた擬音・擬声から来ていると見る方が妥当にお見える。それが和語らしい。「こゑ」が「こわ」と音韻変化ゐる例は,

声様(こわざま),
声ざし,
声色,
声高,
声遣い,
声つき,
声作り,
声づくろひ,

等々ある。「声高」は,

こえだか,

とも訓む。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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