2019年01月20日
しもたや
「しもたや」は,
仕舞屋,
とあて,
シマウタヤの転,
とある(『広辞苑第5版』)。「しもうたや」には,
「もと商家であったが,その商売をやめた家。金利や資財の利潤で裕福に暮らしている人,またはそういう家,転じて,商店でない普通の家」
とある。『江戸語大辞典』には「しもうたや」で載る。
「以前は商家で,現在は廃業している家。商売せず金利などで生活している家」
とある。今日の感覚で言うと,
商売を廃業した家,
と,
金利や資財の利潤で裕福に暮らしている家,
というのが上手くつながらない。「廃業」の意味が,
単なる商売が行き詰まって止めた,
という意味ではなく,
そこそこ金を貯めて隠退した,
という意味なら,つながる。とすると,
仕舞屋,
は,単なる普通の家ではない。
「株を売って裏へ引っ込んで,しもたやで暮らさあ」(文化三年・酩酊気質),
「此所は,ヨロヅ仕まふたやノ楽隠居,後家の獨住」(貞享二年・好色旅日記),
等々の用例がある。ただ『岩波古語辞典』には,「しまひだな」
仕舞屋,
仕舞棚,
と当てて,
古道具屋,
仕舞物棚,
の意が載る。
店仕舞いした家,
と,
古道具屋,
のつながりは,
「店じまいをした家の意の〈仕舞(しも)うた屋〉から変わった言葉で,商売をしていない家をいう。井原西鶴の《世間胸算用(せけんむなざんよう)》(1692)に〈表面(おもてむき)は格子作りに,しまふた屋と見せて〉とあるが,商店などの立ち並ぶ商業地域内の住宅をさすことが多く,住宅地内の住宅を〈しもたや〉と呼ぶのはおかしい。なお,《嬉遊笑覧》には〈そのかみ古道具やを仕舞物(しまいもの)店といへるも身分をかへなどしたる者の家財をかひ取て売ものなり〉とあり,店じまいにともなう不用品の意味で,古道具類を〈仕舞物〉と呼ぶこともあった。」
とある(世界大百科事典 第2版『』)ので,わかってくる。もともと,「しまふ(仕舞ふ・終ふ)」は,
「シマウ(片づける・収納する)」
で,転じて,
終る意になった,とある(『日本語源広辞典』)。「(商売を)終えた家」の意があり,更に,古道具を仕舞う意味から,古道具屋という意味に転じた,と見ると,古道具屋よりは,仕舞屋の方が味わいがある。
仕舞屋は,そうなると,
単なる普通の家,
ではない,
商業地域の(つまり,表店)のあるあたりの家,
でなくてはならない。さらに,
商売をせず、借家などの金利で裕福に生活する家,
の意(『歴史民俗用語辞典』)が暗に含まれている。さらに,江戸時代,そんな場所に住まいすること自体が,
商売で財産ができると店をたたみ、ふつうの家構えで金貸しをするなど、財産の利潤で裕福に暮らす人やその家のこともいった」
と,
金貸しの含意,
も含まれていたと思われる(『由来・語源辞典』http://yain.jp/i/%E4%BB%95%E8%88%9E%E5%B1%8B)
「ある程度の財産ができると店をたたんで,普通の家に住む」
意であるが(『語源由来辞典』http://gogen-allguide.com/si/shimotaya.html),それは,多く,
「表向きは普通の家であるが,裏で家賃や金利などで収入を得て,豊かな暮らしをする者」
でもあった(仝上)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
卯前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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