2019年01月22日

下世話


「下世話」(げせわ)は,

世間でよく口にする言葉や話,
世間の噂,

といった意味である。ま,

俗に,

と言い換えても,変わらない。やっかいなことは,

世話,

だけでも,

通俗の言葉,
世間のうわさ,世人の言い草,

という意味があり,室町末期の『日葡辞典』にも,

「セワ,即ち,セケンにハヤルコトバ」

の意味が載る。だから,それに,「下」が付くと,

低俗な話,
下品な感じ,
低レベル,

という価値表現が加味されるように思えてくる。しかし,多くは,

「本来の『下世話』の意味は、けっして『下品』や『低俗』という意味ではありません。純粋に,
 世間でよく口にする話
 世間の噂
 という意味合いになります。もともと『下世話』の『下』は庶民の階級を指しており、『世話』は『世間話』という意味になります。ですから『下』は『下品』『低俗』という意味ではなく、『下世話』は単なる『世間話』というのが本来の意味ということになるわけです」(https://funbizday.com/2604.html

とか,

「下世話の『下』は庶民を指し、人々の階級を表しています。『世話』は世間の話を表しています。要約すると『世間話』となります。また、世間話と同異語であれば、低俗や俗悪ということでの使用はしてこなかったと思われますが、下世話の『下』という文字が入ることにより、下に見る・下品・低俗というものにつながって行ったものではないかと思います。(中略)正しい使い方としては、
 『これが、下世話に言うところのOOなのか』
 『下世話な質問ですが…(庶民的なという意味)』
 と言った使い方が良いとされています。」(https://kextukonn.jp/archives/7466

といった説明がなされる。

「下世話」は,『日本語源広辞典』の,

「『下(しもじも)+世話(世間話)』です。世間で,俗に口にする言葉や話」

というのが妥当だろう。問題は,「世話」である。「世話」には,

「世話」には,「世話物」「世話狂言」というように,

現代的,
庶民的なこと,

の意味もある。また,

人の為に尽力する,

という意味もある。『大言海』は,「世話」を二項分けている。ひとつは,

「世の噂話,世間に云ひならはす話」
「世情の取沙汰,下世話」

の意であり,いまひとつは,

「忙(せわ)の義ならむ,されど常に當字に世話とも記せれば,姑く,其の仮名遣に因る」

として,

「事を謀り弁ずること,物事を周旋すること,又尽力すること」

の意である。『広辞苑第5版』にも,後者は,

「人のためにことをさしはさむ意からか,一説にセワシイ(忙)のセワ7からかという」

とあるので,「世話」の字を当てているが,別の由来の可能性がある。『日本語源大辞典』は,

「別語源の語とする考えもある。『書言字考節用集』には,『世話(セワ)下學集風俗之郷談也。世業(セワ)』とあり,(世話とは)別に『世業』という漢字表記も示めされており,別語意識がうかがえる。(後者の)場合も,『世話』と表記するのが一般的であるが,これは同音の(前者の)表記を利用したことになる。」

とある。ただ,後者を前者の用法の拡大したものという見る説もあり,『岩波古語辞典』は,特に区別していない。

「世間の評判や噂話の意から,人のためにことばをさしはさんだり,口をきくなどの意が生じてきて,斡旋や周旋の意,更にめんどうをみるの意へと展開したとする。『世話をかく』や『世話を焼く』,『世話を病む』などという表現などからは,その可能性も十分考えられる」(仝上)

とする。『日本語源広辞典』は,

「『セワ(世間話・世間に流行している話)』です。転じて,世間の話を聞き,行動する,面倒を見る意です」

とし,「セワシイ(忙しい)」の「セワ」説を否定している。しかし,例えば同一語とみる,『岩波古語辞典』の意味の変化を,

世俗で用いることば

平たく言い表わしたことば

(浄瑠璃・歌舞伎の世話物),

(人のために言葉をさしはさむ,口をきく等の意から)仲介・斡旋・周旋の労をとること

人の面倒を見ることから生ずるいろいろな苦労,世話焼きの苦労

と見たとき,あるいは,『広辞苑第5版』の,

通俗のことば,

世間のうわさ,

現代的,庶民的,

人のために尽力すること,

とみても,

他人事の噂や言葉遣い

主体の関わる尽力,

とでは,意味の立ち位置が180度変わる。別系統とみた方が妥当な気がする。『江戸語大辞典』に載る,

世話ながら,

という言い回しは,明らかに,

相手を煩わすとき,手数をかけてすまない,

意である。そして,

世話を焼く,
世話を病む,
世話を砕く,

の意味は,「世話ながら」の「世話」の意味の外延にある。あきらかに,世間話の「世話」と「面倒を見る」の「世話」とはいみが切断されている。つまり別系統ではあるまいか。

今日,「下世話な人」という使い方をするらしいが,

「人のうわさ話や下品な話が好きな人」

俗な人,

という意味でなら,「世間話」の意味の「世話」の系統で変化したものという見ることが出来る。「下」の意味の価値表現に引っ張られたとみていい。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
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posted by Toshi at 05:33| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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