2019年01月24日
うら
「うら」は,
裏,
と当てるが,
心,
とも当てる。そのことは,「うらなう(http://ppnetwork.seesaa.net/article/452962348.html)」で触れたように,『大言海』は,「うら(占)」は,
「事の心(うら)の意」
とする。「心(うら)」は,
「裏の義。外面にあらはれず,至り深き所,下心,心裏,心中の意」
とある。『岩波古語辞典』は,「うら」に,
裏,
心,
と当て,
「平安時代までは『うへ(表面)』の対。院政期以後,次第に『おもて』の対。表に伴って当然存在する見えない部分」
とある。「かお」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/450292583.html)の項でも触れたが,「うら(心・裏・裡)」の語源を,『日本語源広辞典』は,
「顔のオモテに対して,ウラは,中身つまり心を示します」
とし,
「ウラサビシ,ウラメシ,ウラガナシ,ウラブレル等の語をつくります。ウチウラというごもあります。後,表面や前面と反する面を,ウラ(裏面)ということが多くなった語です」
とするが,これだと,「うら=心」を前提にしているだけで,なぜ「ウラ」で「心」なのかがわからない。『日本語源大辞典』は,「うら」に,
裏,
裡,
を当てて,
ウは空の義から。ラは名詞の接尾語(国語の語幹とその分類),
衣のウチ(内)ラの意のウラ(裡)か(和訓栞),
ウラ(浦)と同義か(和句解),
の諸説を載せる。「ウラ(浦)」と同義」というのが気になる。「心」という抽象的な概念が,和語において,先に生まれたとは思えない。何かを表した言葉に準えて,「心」に当てはめたというのが自然だからだ。『大言海』は,「うら(浦)」について,
「裏(うら)の義。外海の面に対して,内海の意。或は,風浪和らぎてウラウラの意。船の泊する所」
とし,『日本語源広辞典』は,
「『ウ(海,湖)+ラ(ところ)』。海や湖で,陸地に入り組んだところ」
とし,『日本語源大辞典』は,
ウラ(裏)の義。外海の面に対して,内海の意(箋注和名抄・名言通・大言海),
ウチ(内)ラの意(和訓栞・言葉の根しらべ),
風浪がやわらいで,ウラウラする意(大言海・東雅),
ウ(上)に接尾語ラを添えた語であるウラ(末)の転義(日本古語大辞典),
ムロ,フロ,ホラ,ウロ等と同語で,ここに来臨する水神をまつり,そのウラドヒ(占問)をしたところから出た語(万葉集叢攷),
ウは海,ラはカタハラ(傍)から(和句解・日本釈名),
ウラ(海等)の義(桑家漢語抄),
ウはワタツの約,ウラはワタツラナリ(海連)の義(和訓集説),
蒙古語nura(湾)から(日本語系統論),
と諸説載せるが,「うら(心)」のアナロジーとして使うには,そういう意味が,「うら(浦)」に内包されていなくてはならない。とすれば,
外海⇔内海,
が,ぴたりとする気がする。しかし, 「うら」は,
表(おもて)の対,
と
上(うへ)の対,
の意があるが,
「うへ(表面)」の対から「おもて」の対へ,
と転じている(『岩波古語辞典』)ので,語源を考える場合,
うへ⇔うら
「うら」の対は,「うへ」である。「うち」と「うら」とが通じるのかどうか。「そと」は,「うち」の対だが,ふるくは,「と」と言い,「うち(内)」「おく(奥)」の対とある。「うち」について,『岩波古語辞典』は,
「古形ウツ(内)の転。自分を中心にして,自分に親近な区域として,自分から或る距離のところを心理的に仕切った線の手前。また囲って覆いをした部分。そこは,人に見せず立ち入らせず,その人が自由に動ける領域で,その線の向こうの,疎遠と認める区域とは全然別の取り扱いをする。はじめ場所についていい,後に時間や数量についても使うように広まった。ウチは,中心となる人の力で包み込んでいる範囲,という気持ちが強く,類義語ナカ(中)が,単に上中下の中を意味して,物と物とに挿まれている間のところを指したのと相違していた。古くは『と(外)』と対にして使い,中世以後『そと』または『ほか』と対する」
とする。かろうじて,
うら―うち,
がリンクするかに見える。ちなみに,「うらうら」は,擬態語で,万葉集にもある古い語で,
うららか,
のんびりした,
という意味になる。「浦」につながる気がする。因みに,「裏(裡)」(リ)の字は,
「会意兼形声。里(リ)は,すじめのついた田畑。裏は『衣+音符里』で,もと,たてよこのすじめの模様(しま模様)の布地。しま模様の布地は衣服のうら地に用いた。」
とある(『漢字源』)。物事の表面に現れない,というメタファとして,「裏話」「裏方」等々と,「裏」の字を用いるのは我が国だけである。「浦」(漢音ホ,呉音フ)の字は,
「形声。『水+音符甫(ホ)』で,水がひたひたと迫る岸」
で,水のほとり,水のひたよせる岸,の意で。海や湖などの陸地に入り込んだ「うら」の意で使うのは我が国だけである。「うら」の多いわが国独特の語幹である。やはり,
浦→裏,
と考えたくなる。
なお,「こころ」については別に(http://ppnetwork.seesaa.net/article/454373563.html)触れた。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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