「具足」は,
甲冑,
の意で用いられるが,本来は,
十分に備わっている,
揃っている,
意で,
円満具足,
などという。『大言海』は,二項に分け,一つを,
「具足する(ともなふ)ものもの意」
とし,
携へるもの,携行品,
携ふる意より転じて,所持品,調度,道具,
の意とする。この意から,
伴うもの,同行すること,
の意となり,
引き連れる家来,
の意もある。いまひとつは,
「(所持品,道具の)意にて,武士の所持品,調度,道具は,鎧を第一とするに因りての名なり,モノノグ(什器)を鎧と称し,調度を弓矢,道具を槍の名とすると,正に同意なり。甲冑,籠手,脛楯(はいだて)等,六具,具備する稱と云ふは,具足を,ソナハル意に解して,考へたる鑿説なり,何れの器か,所要の部分の備はらざるものあらむ」
として,
鎧,甲冑の異名,
とし,さらに,
後世は,鎧の脇楯(大鎧の胴の引き合わせの空間を塞ぐもの)なく,種々の付属品なく簡略なる制のもの,
とある。つまり,室町末期の,
当世具足,
を指すことになる。
「日本の甲冑や鎧・兜の別称。頭胴手足各部を守る装備が『具足(十分に備わっている)』との言葉から。鎌倉時代以降から甲冑を具足と呼ぶ資料が見られるが、一般的には当世具足を指す場合が多い。また鎧兜に対して、籠手などの副次的な防具は小具足とも呼ばれた。」(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%B7%E8%B6%B3)
(当世具足の一種「南蛮胴具足」https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%B2%E5%86%91より)
当世具足とは,
「戦国時代に入ると、集団戦や鉄砲戦といった戦法の変化に伴って、大量生産に適しながらも強固さを具える鎧が求められた。それに応じて、当時の下克上の風潮を反映した、従来の伝統にとらわれない革新的改良がなされ、鎧の生産性・機能性が向上し、より簡便で堅牢なものとなった。しかしながら、胴や兜は堅牢なものになったが、手足を覆う部分は従来の形式を踏襲し、鉄の小片を綴ったり鎖帷子形式で動きやすさが重視されていた。西洋のラメラーアーマーと同じ構造原理である。」
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BD%93%E4%B8%96%E5%85%B7%E8%B6%B3)。
(薄片鎧、薄金鎧。日本の甲冑に見られる小札(こざね)と同じで、ラメラー・アーマーと違いはない。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%83%A1%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%BCより)
(本小板胴具足 東京国立博物館 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%B2%E5%86%91より)
しかし,「具足」は,
「事物の完備充足を示す呼称で,恒例臨時の儀式,遊宴,祭祀,法会,軍陣などに際しての用具を総括して,物の具,装束,調度などの名目と同様に広く用いられる。《伊勢貞助雑記》にも〈具足とは物の惣名(そうめい)なり,楽器具足,女の手具足,又射手具足,三具足などと申候也〉とみえる。《宇治拾遺物語》に〈家の具足ども〉,《徒然草》に〈何となき具足とりしたため〉とあるのもその例であり,《御産所日記》には産屋(うぶや)の調度を御産所具足としており,仏供(ぶつぐ)の花瓶,香炉,燭台は一そろいとして三具足(みつぐそく)とよんだ。」
という(『世界大百科事典 第2版』)ように,あらゆる場面での,用具全般を指したと思われる。それを武家の装備に転じて,
甲冑一式,
を指すようになったということではあるまいか。
「初め物事が充足しているさま,儀式,宴などの道具,調度品をさしたが,武士階級の興隆に伴い,鎧(よろい)を意味するようになり,室町時代には大鎧,室町末には胴丸をさした。のち槍(やり),鉄砲の多用により新形式の鎧が出現,在来のものと区別して当世(とうせい)具足と呼ばれた。」
との説明が当を得ている。「具足」自体は,
「具(そなわる)+足(十分)」
の意なのである(『日本語源広辞典』)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95