「随分」は,文字通り,
分に随う,
で,
「随(したがう)+分(身の程)」
とある(『日本語源広辞典』)。
「分相応の意で,転じて,大変,非常に等の意を表す」
とある。
この「分」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/424082581.html)は,すでに触れたように,
分を弁える,
の意味で使う。意味は,
各人にわけ与えられたもの。性質・身分・責任など,
の意味で,分限・分際,応分・過分・士分・自分・性分・職分・随分・天分・本分・身分・名分等々という使われ方をする。
「分」(漢呉音フン,ブ,呉音ブン)の字は,
「八印(左右にわける)+刀」
で,二つに切り分ける意を示す(『漢字源』)。ここでの意味で言えば,
ポストにおうじた責任と能力
の意だが,「区別」「けじめ」の意味も含む。「身の程」「分際」という言葉とも重なる。それはある意味,
「持前」とも重なる。
分を守る,
とか
分を弁える,
という場合,上にか天にか神にか,分を超えたことへの戒めととらえることができる。
「身」という字は,
「女性が腹に赤子を身ごもったさまをえがいたもの。充実する,一杯詰まる,の意を含む」
とある。「身の程」は,身分がらとか地位の程度を指すようだが,
天の分,
を指すのではあるまいか。つまり,
天から分け与えられた,性質・才能,
の意味のそれではなく,
天から与えられた分限,職分,
の意である。
死生命有
富貴天に在り(『論語』)
の意である。
「随(隨)」(漢音ズイ,呉音スイ)の字は,
「会意兼形声。隋・墮(=堕,おちる)の原字は「阜(土盛り)+左二つ(ぎざぎざ,參差[シンシ]の意)の会意文字で,盛り土が,がさがさとくずれちることを示す。隨は『辶(すすむ)+音符隋』で,惰性にまかせて壁土がおちて止まらないように,時制や先行者のいくのにまかせて進むこと。もと,上から下へ落ちるの意を含む」
で,「したがう」という意ではあるが,
「なるままにまかせる」「他の者のするとおりについていく」「その事物やその時のなりゆきにまかせる」
という含意である。
とすると,「随分」は,
身分にしたがう,
とはいうが,
身分相応,
あるいは,
分相応,
と,逆らわず,そのままに,という含意になる。それが,
可能な限りぎりぎりの限界,
と意味の範囲を拡大し,そこから,調度視点を変えたように,価値表現に転じ,
程度が甚だしい,
ひどい,
という意味になる。既に『江戸語大辞典』には,
「助詞『と』を伴うこともある。かなり,相当」
と,意味を転じている。『由来・語源辞典』(http://yain.jp/i/%E9%9A%8F%E5%88%86)は,
「古くは文字通り『分(ぶん)に随(したが)う』、身分相応の意で使われていた。これが、分に応じてできる限り、極力の意になり、大いに、非常にの意にも使われるようになった。ひどいの意は明治時代に生じた。」
としている。江戸期には,まだ,
かなり,相当,
であったが,明治期,ついに,
ひどい,
にまで価値表現が深まった,ということらしい。つまり,
身分相応,
↓
分に応じてできるかぎり,極力,
↓
かなり,はなはだ,
↓
ひどい,
と意味が変化した(『語源由来辞典』)。いまでは,
滅法(めっぽう),
物凄い(ものすごい),
やけに,
矢鱈(やたら),
余程(よほど ),
と同義語となっている。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:随分