「傾く」は,
かたむく,
と読むが,
「古くは,カタブク。『片向く』の意」
とある(『広辞苑第5版』)。「かたぶく」の項には,
「中世以降カタムクと両用される」
とある。『岩波古語辞典』には,「かたぶく」は,
「カタは一方的で不完全の意。ブキはムキ(向)の子音交替形。安定直立から斜めにずれて倒れそうになる意」
とある。
『大言海』は,
「偏(かた)向くの義」
とする。『日本語源広辞典』も,
「カタ(片)+ブク(向く・寄る)」
で,
一定の基準(水平または垂直)から片方へそれる,
つまり,
斜めになる,
意だが,それをメタファに,
考えや気持ちがある方面に引きつけられる,
陽が西に沈みかける,
(首を傾げる意から)不審に思う,
不安定になる,
等々の意を持つ。「傾く」は,
カブク,
とも訓む。やはり,
かたむく,
意だが,その「傾く」をメタファに,
異様身なり,異端の言動など,常軌を外れている,
自由放恣な行動をする,
ふざける,戯れる,
意から,
歌舞伎を演ずる,
意へとつながり,名詞化して,
歌舞伎,
歌舞妓,
と当て字することになる。この「歌舞伎」は,
「天正時代の流行語で、奇抜な身なりをする意の動詞「かぶ(傾)く」の連用形から」
とある(『広辞苑第5版』その他)。
ただ,この「かぶく」は,
「片向く」
ではなく,『大言海』には,
「頭(カブ)を活用せしむ(頭(かぶ)す(傾),頭(かぶ)る(被)同じ),まくらく(枕),かづらく(鬘)の例なり,頭重く,ウハカブキになる意より,傾く義となる」
とある。「うはかぶき(上傾き)」とは,
物の頭がちにて,傾くこと,
つまり,
頭でっかち,
であり,さらに,
派手で上っ調子なこと,
の意がある。この意が,
かぶきもの(傾者),
異様な風体をして大道を横行する軽佻浮薄の遊侠の徒,
を指すのにつながる。「かぶく」
には,
傾く,
つまり,
常軌を逸する,
意と,そこに,
自由奔放さ,
へのちょっとした憧憬も含意している。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:傾く