2019年02月07日
かむ
「かむ」は,
噛(嚙)む,
咬む,
咀む,
嚼む,
等々と当てる。
「噛(嚙)」(コウ,漢音ゴウ,呉音ギョウ)の字は,
「会意。『口+歯』。咬(コウ)と近い。齧(ゲツ かむ)の字を当てることもある。」
で,かむ,意である。「齧」(ケツ,漢音ゲツ,呉音ゲチ)の字は,
「会意兼形声。丰は竹や木(|)に刃物で傷(彡)をつけたさまをあらわす。上部の字(ケイ・ケツ)はこれに刀をそえたもの。齧はそれを音符とし,歯を加えた字で,歯でかんで切れ目をつけること」
で,かむ,かんで傷をつける意である。
「咬」(漢音コウ,呉音キョウ)の字は,
「会意兼形声。『口+音符交(交差させる)』で,上下のあごや歯を交差させてぐっとかみしめる」
で,かむ,かみ合わせる意。
「咀」(ソ,漢音ショ,呉音ゾ)の字は,
「会意兼形声。且は,積み重ねた姿を示し,積み重ね,繰り返す意を含む。咀は『口+音符且(ショ・シャ)』で,何度も口でかむ動作をかさねること」
で,なんどもかむ意,咀嚼の咀である。
「嚼」(漢音シャク,呉音ザク)の字は,
「会意兼形声。爵は,雀(ジャク 小さい鳥)と同系で,ここでは小さい意を含む。嚼は『口+音符爵』で,小さくかみ砕くこと」
で,細かく噛み砕く意である。。
「かむ」意は,いわゆる「噛む」「噛み砕く」意から,舌をかむ,のように,
歯を立てて傷つける,
意,さらに,
歯車の歯などがぴったりと食い合う,
といった直接「噛む」にかかわる意味から,それをメタファに,
岩を噛む,
とか,
計画に関わる,
という意に広がり,最近だと,
台詞を噛む,
というように,台詞がつっかえたり,滑らかでない意にも使う。『岩波古語辞典』では,
鼻をかむ,
の「かむ」も「噛む」を当てているが,
洟擤(はなか)み,
擤(か)む,
と当てる(『大言海』は「洟む」と当てている)。あるいは,漢字を当て分けるまでは,同じ「かむ」であった,と考えられる。
「かむ」について,『岩波古語辞典』には,
「カム(醸)と同根。口中に入れたものを上下の歯で強く挟み砕く意。類義語クフは歯でものをしっかりくわえる意」
とする。『日本語の語源』は,「かむ」の音韻変化を,こう書いている。
「カム(噛む)は上下の歯をつよく合わせることで,『噛み砕く』『噛み切る』『噛み締める』などという。
カム(噛む)はカム(咬む)に転義して『かみつく。かじる』ことをいう。人畜に大いに咬みついて狂暴性を発揮したためオホカミ(大咬。狼)といってこれをおそれた。また,人に咬みつく毒蛇をカムムシ(咬む虫)と呼んで警戒した。
カム(咬む)はハム(咬む)に転音した。(中略)カム(噛む)はカム(嚼む)に転義して食物を噛み砕くことをいう。米を嚼くで酒をつくったことからカム(醸む)のごがうまれた。」
逆に言うと,「かむ」という語しかなかったということなのではないか。漢字を当てなければ,文脈を共にしなければ,意味が了解できない。
で,「かむ」の語源は何か。『日本語源広辞典』は,
「『動作そのものを言葉にした語』です。カッと口をあけて歯をあらわす。カ+ムが語源です」
とする。あり得ると思う。似ているのは,
カは,物をかむ時の擬声音(雅語音声考・国語溯原=大矢徹・音幻論=幸田露伴・江戸のかたきを長崎で=楳垣実),
という説がある(『日本語源大辞典』)。
かむ行為の擬態語,擬音語というのが一番妥当に思える。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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