かち


「かち」

徒,
徒歩,
歩行,

等々と当てる。

乗り物に乗らないで歩くこと,
陸路を行くこと,

の意で,

徒士,

と書くと,

徒士侍,

つまり,

騎乗を許されない武士,

の意となる。

『広辞苑第5版』には,「かち」は,

「『くがち(陸地)』の略『かち』の意が転じて」

とある。『大言海』も,

「陸(かち)の義,陸(かち)より行くと云ふべきを,略して云ふなり」

とあり,「かち(陸)」の項ては,

「陸地(くがち)の略ならむと云ふ。出雲(イヅクモ),イヅモ」

と載る。陸路を,

くがぢ,

と読む(『岩波古語辞典』)し,「陸」を,

くが,

と訓み,「くが」は,

「クヌガの約」

とあり(『岩波古語辞典』『広辞苑第5版』),

「海・川などに対して」

陸地を指す(『岩波古語辞典』)。

歩行,

を,副詞的に,

かちより,

と訓ませる。万葉集に,「他夫(ひとづま)の,馬より行くに己夫(おのづま)の,歩従(かちより)行けば見る毎に.哭(ね)のみ泣(な)かゆ」という長歌があると『大言海』にある。『岩波古語辞典』には,

徒歩より,

と当て,

「ヨリは,ユに同じ」

つまり,

徒歩ゆ,

と同じで,

「ユは経過点・方法・手段を表す助詞」

で(『岩波古語辞典』)で,

歩いて,
徒歩で,

の意である

『日本語源広辞典』は,「かち」の語源を,

「カ(交,足の運び)+チ(道)」

とする。「交(か)ふ」というし,「道(ち)」もある(ただ,『岩波古語辞典』によれば,道を通っていく方向の意で,単独で使われた例はなく,大路(おおち)のように)ので,理屈は合うが,しかしちょっと理屈が過ぎまいか。

クガダチ(陸行)の反(名語記),
韓語カタ(行くの意)の転(日本古語大辞典=松岡静雄),
蹴分けて行く義(和訓集説),
カチ(駈道)の義(言元梯),

等々もあるが,

くが(陸),

にかかわる,

くがち(陸地),

の転訛とみていいように思う。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
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スキル事典;
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書評
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