2019年02月14日

無理


「無理」は,文字通り,

道理のないこと,理由の立たないこと,

の意(「無理もない」)よりは,

強いて行うこと,

の意の,

無理強い,
無理やり,
無理がきかない,

という使い方や,

することが困難なこと,

の意の,

無理な要求,
無理難題,
無理酒,
無理無体,

等々という使い方をすることが多い。この他に,さらに,「無理をして買った」とか「無理のないダイエット」というような,

心身や経済的能力などに過度の負担をかけること,

という意味を加えるものもある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%84%A1%E7%90%86)が,これは,強いるの延長戦上,ともいえる。

この意味の広がりは,

道理に合わないこと,

道理を逸脱して強引なこと,

(名詞に冠して)強いて行う意を表す,

過度の負担をかけること,

という流れで見ると(『岩波古語辞典』),意味の広がりが,理不尽な状態表現から,それを逸脱する価値表現に転じ,それを強いる(強いられる)主体的な(価値)表現にシフトしていくのがよく見える。

「理」(リ)の字は,

「会意兼形声。里は『田+土』からなり,すじめをつけた土地。理は『玉+音符里』で,宝石の表面に透けて見えるすじめ。動詞としては,すじをつけること」

とある(『漢字源』)。で,「玉理」というように「宝石のもよのすじめ」の意。そこから,「条理」というような「物事のすじみち」,「ことわり」の意。他方で,「きめ」の意は,宝石から来たのかもしれない。動詞は,「理財」のようでに,おめる,ただす意。その違いは,

修は,飭(ただす)なり,葺理なり,屋宅道路を修理する類,あしき所をなほす義。修身修道の類にも用ふ。
治は,乱の反。いり乱れたる事の,おちつきてをさまるなり,
理は,玉を治むる義。筋道を正してをさむるなり。理髪訟理の類,
収は,取り入るるなり,収蔵・収斂と連用する,
納は,いるるとも訓む。をさむと訓むときは,先方へ入れをさむるなり,
蔵は,見えぬやに蔵へかくし入るる義,

とある(『字源』)。筋道を正しておさめる意は,「理」のみのようである。「無理」の元々意味が,良く見える。中国の諺に(https://ja.wikiquote.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E3%81%AE%E8%AB%BA),

有理贏,無理輸

理があれば勝ち、理が無ければ負ける,

というのがあるそうだが,元来は,

筋が通らない,

ゐであったと思える。それが,和語では,「理」を,

強いる,

と受け止める,というのも,なかなか日本人を象徴している気がする。『大言海』の,

道理なきこと,

という意味も,状態表現よりは価値表現へシフトしていて,少し日本化した解釈に思える。『精選版 日本国語大辞典』も,

道理に反すること,

とする(文明本節用集)。しかし,引用されている『史記抄』の,

「竇嬰灌夫二公は、無理なる罪に逢たぞ」( 韓愈‐答柳柳州食蝦蟇詩),

と比べると,ちょっと齟齬がある気がするのは,僕だけだろうか。

ただ,この意味解釈の流れからの方が,

強いる,

という感覚に近づくのかもしれない。因みに,「無理やり」というのは,

「『やり』を『矢理』と書く のは当て字で、本来は『遣る(やる)』の連用形『遣り(やり)』。『遣る』は、人を派遣したり物を送るといった意味であったが、中世頃より、何か事をなす意味で使われるようになった。この『無理』と『遣り』が合成され、近世頃から『無理やり』と使われ始めた。」

とある(http://gogen-allguide.com/mu/muriyari.html)。「無理強い」の関連語である。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:無理
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posted by Toshi at 05:13| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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