2019年02月15日
なく
「なく」は,
泣く,
鳴く,
啼く,
と当てる。
「ネ(音)の古形ナを活用させた語か」
とある(『広辞苑第5版』『岩波古語辞典』)。
「人間が声を立てて涙を流す」意では,
泣く,
を当て(『大言海』は,哭,ともする),「鳥・獣・虫などが声を立てる」意は,
鳴く,
と当てる(『岩波古語辞典』)。「啼く」については,他は触れないが,『大言海』は,
「赤子,声を出す」
の意を載せ,その後に,
「禽,獣,蟲など,聲を出す」
意を載せる。漢字は,明確な区別がある。
「鳴」(漢音メイ,呉音ミョウ)の字は,
「会意。『口+鳥』で,取りが口で音を出してその存在をつげること」
で,鳥,獣のなくのを指す。
「啼」(漢音テイ,呉音ダイ)の字は,
「形声。『口+音符帝』。次々と伝えてなく,あとからあとから続けてなく」
で。鳥獣にも,人にも用いる。
「泣」(漢音キュウ,呉音コウ)の字は,
「会意。『水+粒の略体』で,なみだを出すことを表す。息をすいこむようにしてせきあげてなく」
で,「哭」(大声をあげてなく)の対。日本語では,「泣」と「哭」の区別をしない。
「哭」(コク)の字は,
「会意。『口二つ+犬』で,大声でなくこと。犬は大声でなくものの代表で,口二つはやかましい意を示す」
漢字のそれぞれの区別は,,
「鳴」は,鳥獣のなくなり,悲鳴にも,和鳴(鳥が声を合わせて鳴く)にも通じ用ふ。なると訓むときは,万物の声ををだしたること,又,名声の世上に聞ゆる意,
「啼」は,嗁(テイ さけぶ)と同時,声をあげてなくなり,悲しむ意あり,
「泣」は,涙を流し,声を立てずしてなくなり,
「哭」は,涙を流し,声をあげて,深く悲しみなくなり,
とあり(『字源』),「なく」の漢字は,かなり明確に区別されている。
「なく」は,「ね(音)」の活用というから,すべて,
音,
であったとも言えるが,面白いことに,「音」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/457490864.html?1548829619)で触れたように,「音」の字を当てていても,
「おと」
は,
「離れていてもはっきり聞こえてくる,物のひびきや人の声,転じて,噂や便り。類義語ネ(音)は,意味あるように聞く心に訴えてくる声や音」
とあり(『岩波古語辞典』),
「ね」
は,
「なき(鳴・泣)のナの転。人・鳥・虫などの,聞く心に訴える音声。類義語オトは,人の発声器官による音をいうのが原義」
とあり,
「おと」は「物音」,
「ね」は,「人・鳥・虫などの音声」
という区分していた。「なく」は,
物音,
ではなく,
声,
とした。「こえ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/463713379.html)で触れたように,漢字「声」にはひろく,
「人の声,動物の鳴き声,物の響きを含めていう」
とあり,「音声」であるが,「こえ(ゑ)」は,
をみると,和語「こゑ」は,
人や動物が発する音声,
を指した(『岩波古語辞典』)。和語では,「こえ」と,
なく,
はかさなる「ね」なのである。「ね」が「なく」であり,「なく」が「ね」であり,「ね」が「こえ」であった。物の音とは区別しても,人も,鳥獣も,蟲も,「ね」であり,「なく」であった。虫の「ね」を愛でたことと通じる。
「音(ネ・ナ)+く」(『日本語源広辞典』)
であり,どういうなき声も区別しなかったのである。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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