「もののふ」は,
武士,
と当てるが,
サムライ,
とは由来を異にする。サムライ(http://ppnetwork.seesaa.net/article/463927433.html)はすでに触れた。
(平安時代の武士、那須与一を描いた画 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%A6%E5%A3%ABより)
『実用日本語表現辞典』には,「もののふ」は,
「武士」の読みの一種。武道を修めた戦士を指す語,
と,
「物部」の読みの一種,ニギハヤヒミコトを祖神とし、飛鳥時代前後に栄えた豪族,
の意が載る。ついでならが,知らなかったが,
「カタカナ表記で『モノノフ』と表記する場合は、女性アイドルグループ『ももいろクローバーZ』のファンならびにライブの観客を指すことが多い」
ともある。確かに,『岩波古語辞典』は,「もののふ」に,
武士,
と
物部,
を当てている。で,
「モノはモノノベのモノに同じ。はじめ武人の意。後に文武の官の意に広まった」
とある。枕詞の,
もののふ(物部)の,
は,
「武人の射る矢から『八十(やそ)』『矢野』『矢田野』『弓削』に『射(い)』から同音の地名『宇治』などにかかる」
とある(『広辞苑第5版』)。
『広辞苑第5版』に,
「上代,朝廷に仕えた官人」
とあるのはその意である。そこから,
「武勇をもって仕え,戦陣に立つ武人」
に広がり,
つわもの,
武士,
に意味が広がったものと思われる。
『大言海』は,
「兵器をモノと云ひ,フは丈夫の夫,即ち,物の夫の意。物の具と同趣。」
とある。『日本語源広辞典』も,
「モノ(兵器・武)+ノ+フ(夫)」
とする。この「モノ」の言い方は,
物頭(足軽大将),
の「物」と重なる。『大言海』は,
兵器,
を,
つわもの,
と訓ませている。
「物になるとは,然るべきものになる意,物のきこえとは,物事のきこえ人聞き,世情の評判」
と。「物」の項で書いている(『大言海』)。「もののふ」とは,
「古へ,武勇(たけ)き職を以て仕ふる武士(タケヲ)の称。一部となりて物部と云ひ,転じては,凡そ朝廷に仕ふる官人の称となれり」
とある。で,「物部(もののべ)」とは,
「武士部(もののふべ)のフの略。また,ベを略して,モノノフとも云ふ,共に兵器(つわもの)の羣(むれ)の義」
とある。
「初,饒速日(にぎはやひ)命,天上より率ゐられし廿五部の物部を獻りしより,武官の棟梁,輔佐の重職は,此氏の人,御代御代統べ来つれば,其職に就きて云ひしが,後,神武天皇の御時,可美眞手(うましまで)命,天(あまの)物部を率ゐて仕へ奉る。是れ物部氏の遠祖なり」
と,物部氏の由来とつながる,とする。ただ,『日本語源大辞典』は,
「『もの』は兵器の意かというが明らかではなく,『ふ』も未詳だが,上代,軍事警察の任に当たっていた『もののべ(物部)』と関係深い毎考えられる」
としている。ただ,「もののふ」という言葉は,必ずしも,
サムライ,
とはイコールではなかったらしく,サムライ(http://ppnetwork.seesaa.net/article/463927433.html)でも触れたように,「サムライ」を,
「地位に関係なく武士全般をこの種の語で呼ぶようになったのは、江戸時代近くからであり、それまでは貴族や将軍などの家臣である上級武士に限定されていた。 17世紀初頭に刊行された『日葡辞書』では、Bushi(ブシ)やMononofu(モノノフ)はそれぞれ『武人』『軍人』を意味するポルトガル語の訳語が与えられているのに対して、Saburai(サブライ)は『貴人、または尊敬すべき人』と訳されており、侍が武士階層の中でも、特別な存在と見識が既に広まっていた。」
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BE%8D)。
これは,サムラヒが,その振る舞いに由来(主君の側近くで面倒を見ること、またその人)するのに対して,「もののふ」は,「武」や「兵」や「兵器」という手段に由来してきた差ではないか,という気がする。ただ,『日本語源大辞典』は,「つわもの」の項で,
「古くは兵よりも武器そのものをさす(武器の)の場合が多かった。兵をさす場合は,類義語『もののふ』が『もののけ』に通う霊的な存在感を持つのに対して,物的な力としての兵を意味していたらしい」
とある。「もの」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/462101901.html?1549066837)で触れたように,「もの」は,
「形があって手に振れることのできる物体をはじめとして,広く出来事一般まで,人間が対象として感知・認識しうるものすべて。コトが時間の経過とともに進行する行為をいうのが原義であるに対して,モノは推移変動の観念を含まない。むしろ変動のない対象の意から転じて,既定の事実,避けがたいさだめ,普遍の慣習・法則の意を表す。また,恐怖の対象や,口に直接指すことを避けて,漠然と一般的存在として把握し表現するのに広く用いられた。人間をモノと表現するのは,対象となる人間をヒト(人)以下の一つの物体として蔑視した場合から始まっている。」
であったが(『岩波古語辞典』),大野晋の言うように,
「『もの』という精霊みたいな存在を指す言葉があって、それがひろがって一般の物体を指すようになったのではなく、むしろ逆に、存在物、物体を指す『もの』という言葉があって、それが人間より価値が低いと見る存在に対して『もの』と使う、存在一般を指すときにも『もの』という。そして恐ろしいので個々にいってはならない存在も『もの』といった。」
としている(http://www.fafner.biz/act9_new/fan/report/ai/oni/onitoyobaretamono.htm)と考えると,「もののけ」は,「もの」から分化したものと考えるべきで,「もののふ」の「もの」は,やはり,武器と見なすべきであろう。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95