「武士」は,
もののふ,
と訓ませたりするが,由来は,漢語だと思われる。「史記」蘇秦傳に,
「武士二十萬」
とある(『字源』)らしい。『大言海』には,
「高祖令武士縛信,載後車」(漢書・韓信傳)
「先以詔書告示都,密徴求武士,重其購買,乃進軍」(後漢書・功都夷傳)
の例が載る。「武士」は,
武夫,
と同じらしい。「武夫」に,
もののふ,
の意として,周南の,
「赳赳武夫,公侯干城」
の詩句がある(『字源』)という。ただ,「武夫」は,
玉に似た美石,
の意もあるらしい(仝上)。「武人」も,
もののふ,
の意で,
「武人東征」
の詩句(小雅)がある。
武士,武夫,武人,
は,ほぼ同意である。
「武」(漢音ブ,呉音ム)の字は
「会意。『戈(ほこ)+止(あし)』で,戈をもって足で堂々と前進するさま。ない物を求めてがむしゃらに進む意を含む」
とあり,たけだしい意で,「猛」「勇」と類似する。当然,戦争や武器の意もある。まさに「武」である。
「士」(漢音シ,呉音ジ)の字は,
「象形。男の陰茎の突きたったさまを描いたもので,牡(おす)の字の右側にも含まれる。成人として自立するとこ」
とあり,我が国では,
サムライ,
の意で使うが,周代の諸侯―大夫―士の「士」であり,春秋・戦国以降の知識人を指す。「論語」に出る「士」は,
「士不可以不弘毅」(士は以て弘毅ならざる可からず)
サムライの意ではない。中国でいう,
士農工商,
の「士」は,「無論大家小家士農工商」(曾国藩)と,
知識人,
を指す。我が国では,「士」を,
サムライ,
とするが,「武士」と「サムライ」はイコールではなかったらしい。
「武士といふは,朝廷武官の人の総称にて,上古の書にも,武士といふ名目あり」
とある(安斎随筆)。「武士」という言い方は,
官人,
を指した。
「同義語として武者(むしゃ、むさ)があるが、『武士』に比べて戦闘員的もしくは修飾的ニュアンスが強い(武者絵、武者修業、武者震い、鎧武者、女武者、若武者、落武者など)。すなわち、戦闘とは無縁も同然で「武者」と呼びがたい武士はいるが、全ての武者は「武士」である。他に類義語として、侍、兵/兵者(つわもの)、武人(ぶじん)などもあるが、これらは同義ではない。」
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%A6%E5%A3%AB)。「サムライ」は,「サブラフ」から平安時代に「サブラヒ」という名詞に転じたが,
「その原義は『主君の側近くで面倒を見ること、またその人』で、後に朝廷に仕える官人でありながら同時に上級貴族に伺候した中下級の技能官人層を指すようになり、そこからそうした技能官人の一角を構成した『武士』を指すようになった。つまり、最初は武士のみならず、明法家などの他の中下級技能官人も「侍」とされたのであり、そこに武人を意味する要素はなかったのである。」(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BE%8D)
で,「サムライ」も,
「「朝廷の実務を担い有力貴族や諸大夫に仕える、通常は位階六位どまりの下級技能官人層(侍品:さむらいほん)を元来は意味した。」(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BE%8D)
武士も,
「奈良時代に武士は『もののふ』と呼ばれ、朝廷に仕える『文武百官』のことで あった。」(http://gogen-allguide.com/hu/bushi.html)
つまり,「武士」も「サブラフ者(サムライ)」も,
地下人(じげにん),
であり,
清涼殿殿上(てんじょう)の間に昇殿することを許されていない官人,
であり,あるいは転じて,
位階・官職など公的な地位を持たぬ者,
の意であった。「武」の地位向上とともに,「サムライ」が,
武士,
「武士」が,
サムライ,
の意と重なる。
(大鎧と弓で武装した武士 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BE%8Dより)
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
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