2019年02月20日

べそ


べそをかく,
なきべそをかく,

の「べそ」は,

こどもなどの泣き顔,

とある(『広辞苑第5版』)。『大言海』には,

「べし(壓)の轉か」

とあり,

小児の泣き顔になること,

の意と共に,

壓口(べしくち)をつくること,

の意が載る。「俚言集覧」には,

「へし口とは,口を壓へつくること也。能の面に大壓(オホヘシ)あり,口を結びたるを云,小児泣かんとする時の面つきを,ベソを作ると云ふも是也」

とある。

押し合いへし合い,

の「へし(圧)」という説である。

へしぐち(壓し口),

という言葉があり,

不興にて,強いて口をへの字に噤みて居ること,

とある(『大言海』)。

能面に,「小べし見」というのがあり,荒々しい力を宿す恐ろしい神を表した鬼神の面の1つで,「べし見」は、口を強くつぐむことを「へしむ」と言ったことに由来するとあるhttp://hikone-castle-museum.jp/cms/wp-content/uploads/2018/08/ca9fee3afa90d79ee664ce7abb9a33b5.pdf

『岩波古語辞典』には,

べしめん(壓面),

が載り,

べし口の表情の面,

とある。

kobeshimi04f.jpg

(能面「小べし見」 鬼神の面の1つ。「べし見」は口を強くつぐむことを「へしむ」と言ったことに由来する。http://hikone-castle-museum.jp/cms/wp-content/uploads/2018/08/ca9fee3afa90d79ee664ce7abb9a33b5.pdfより)

「べそ」が,

ベシクチ(圧口)の轉(嬉遊笑覧・松屋筆記),
ベシ(圧)の転か(大言海),
ベレクチの訛。また口をへの字形にして泣くところから(ことばの事典=日置昌一),

という子供の泣き顔から来たのか,

能面のベシミ(圧面)の口のように口を結んでいるのをベシということから(俚言集覧),

の二説のいずれか,ということのようである。他に,

「べそ」 は 「めっそう(滅相)」 が転訛したもの,

という説もあるらしい(https://mobility-8074.at.webry.info/201501/article_6.html)が語呂合わせに思える。普通に考えれば,顔の形から来て,それをなぞって面が出来たということだろう。

「『へしくち』の『へし』と『べしみ』の『べし』は同源で,への字に曲げることを表しているため,これらの説を別物として扱う必要はない」

と『語源由来辞典』(http://gogen-allguide.com/na/nakibesowokaku.html)であろう。方言に,

「『押す』ことを『おっぺす』と言うところがあります。この『ぺす』は『へす(圧す)』であり、強く押さえるという意味です。泣き出すときに口をゆがめるのが、口を押さえつけたようであることから『へし口』という言葉ができ、泣き出しそうになることを『へし口を作る』というようになって、『へし口を掻く(表現する・・・の意)』に転じ、『べそをかく』に変化したようです。」

という(https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q109875995)のが妥当である。ちなみに,「べそをかく」の「かく」は,

「漢字では『掻く』と書く。『掻く』は爪などで表面をこするという動作から,『事をなす』という意味でも使用し,『汗をかく』『いびきをかく』『恥をかく』など,好ましくないものを表面に出す表現で多く使われる」

とする(http://gogen-allguide.com/na/nakibesowokaku.html)。

「書く(http://ppnetwork.seesaa.net/article/456827888.html)で触れたように,「掻く」は「書く」と同源で,

「爪を立て物の表面に食い込ませてひっかいたり,絃に爪の先をひっかけて弾いたりする意。『懸き』と起源的に同一。動作の類似から,後に『書き』の意に用いる」

とあり(『岩波古語辞典』),「懸き」も,

「物の端を対象の一点にくっつけ,そこに食い込ませて,その物の重みを委ねる意。『掻き』と起源的に同一。『掻き』との意味上の分岐に伴って,四段活用から下二段活用『懸け』に移った。既に奈良時代に,四段・下二段の併用がある。」

としている。つまり,「書く」も「掻く」も「懸く」も「掛く」も「舁く」も「かく」で,幅広く動作を表現しており,

「好ましくないものを表面に出す表現」と強いていう必要はなく,「掻く」の,

「手を動かして目につく動作をする」

意から転じて,

「動作などが外に大きく現れる」

意の流れで,「鼾をかく」「恥をかく」と,たとえば「胡坐をかく」という動作になぞらえた表現とみていい。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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