かたな(http://ppnetwork.seesaa.net/article/450320366.html?1549439317)については既に触れたが,「太刀(たち)」は,
「太刀(たち)とは、日本刀のうち刃長がおおむね2尺(約60cm)以上で、太刀緒を用いて腰から下げるかたちで佩用(はいよう)するものを指す。」(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%AA%E5%88%80)
で,腰に佩くものを指す。腰に差すのは,
打刀(うちがたな),
と言われ,
「打刀は、主に馬上合戦用の太刀とは違い、主に徒戦(かちいくさ:徒歩で行う戦闘)用に作られた刀剣である。」
とされる(仝上)。
「馬上では薙刀などの長物より扱いやすいため、南北朝期~室町期(戦国期除く)には騎馬武者(打物騎兵)の主力武器としても利用された」
らしいが,騎馬での戦いでは,
打撃効果,
が重視され,「斬る物」より「打つ物」であったという。そして,腰に佩く形式は地上での移動に邪魔なため,戦国時代には打刀にとって代わられた(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%AA%E5%88%80)。
打刀(うちがたな),
は,
「反りは『京反り』といって、刀身中央でもっとも反った形で、腰に直接帯びたときに抜きやすい反り方である。長さも、成人男性の腕の長さに合わせたものであり、やはり抜きやすいように工夫されている。」
といい(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%89%93%E5%88%80),やはり,これも,
「太刀と短刀の中間の様式を持つ刀剣であり、太刀と同じく『打つ』という機能を持った斬撃主体の刀剣である」
という(仝上)。ちなみに,
「通常 30cmまでの刀を短刀,それ以上 60cmまでを脇差,60cm以上のものを打刀または太刀と呼ぶ。打刀は刃を上に向けて腰に差し,太刀は刃を下に向けて腰に吊る。室町時代中期以降,太刀は実戦に用いられることが少い。」(ブリタニカ国際大百科事典)
とあり,「太刀」と「打刀」の区別は,例外があるが,「茎(なかご)」(刀剣の、柄つかの内部に入る部分)の銘の位置で見分ける。佩いた太刀の場合,名は,外側に位置する。
さて,その「太刀」は,何を見ても,
「『断ち』の義」
とあり,『広辞苑第5版』には,こうある。
「人などを断ち切るのに用いる細長い刃物。古くは直刀を『大刀』と表記し,平安時代以後のものを『太刀』と書く。儀仗・軍陣に用い,刄を下向きにして腰に帯びるのを例とする」
すでに,実戦向きではない。
(太刀 備前長船祐定 付 青貝螺鈿太刀拵 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%AA%E5%88%80より)
『岩波古語辞典』は,「断ち」は,
「タエ(絶)の他動詞形」
とあるが,「たえ(絶)」をみると,
「タチ(絶)の自動詞形。細く長くつづいている活動とか物とかが,中途でぷっつり切れる意。類義語ヤミ(止)は,盛んな活動や関係が急に衰えて終りとなる意。ツキ(尽)は,力が消耗しきる意」
とあり,意味はクリアになるが語源は循環している。『日本語源広辞典』は,
断つ,
絶つ,
裁つ,
は,
「タツ・タチ(切り離す)」
とするが,なぜ,「たつ」が切り離すのかが説明できていない。『日本語の語源』は音韻変化から,
「上代,刀剣の総称はタチ(断ち,太刀)で,タチカフ(太刀交ふ)は,『チ』の母韻交替[ia]でタタカフ(戦ふ)になった。〈一つ松,人にありせばタチ佩けましを〉(記・歌謡)。平安時代以後は,儀礼用,または,戦争用の大きな刀をタチ(太刀)といった。
ちなみに,人馬を薙ぎ払うナギガタナ(薙ぎ刀)は,『カ』を落としてナギタナになり,転位してナギナタ(薙刀・長刀)に転化した。」
とする。「断ち」の語源は,これではわからない。『日本語源大辞典』は,
力を用いて切る音から(国語の語根とその分類=大島正健),
タツ(立)の義,刀の刄が入りたつ意から(名言通),
ヘダツ(隔)の義(言元梯),
等々が載る。「たつ」は,もともと漢字が無ければ,
立つ
も,
絶つ
も,
経つ
も,
建つ
も,
発つ
も,
断つ
も,みな「たつ」である。「立つ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/399481193.html?1549499218)は,既に触れたように,「立つ」は,の語源は,
「タテにする」
「地上にタツ」
らしい。「裁つ」「絶つ」「断つ」は,それとは別系統とされる。で,「かたな」の項では,
タチ切ル,
のタチから来ている,とした。その「タチ」は,臆説かもしれないが,
力を用いて切る音,
に関わらせるなら,「叩き斬る」の「叩く」なのではないか。太刀は,斬るのでは,「打つ」物であったのだから。
叩き斬る,
は,促音化すると,
たたっきる,
となる。
参考文献;
笠間良彦『図説日本甲冑武具事典』(柏書房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95