2019年02月25日

から


「から」は,

うから,
やから,
ともがら,
はらから,

の「から」で,

族,
柄,

とあてる。『岩波古語辞典』には,

「満州語・蒙古語のkala,xala(族)と同系の語。上代では『はらから』『やから』など複合した例が多いが,血筋・素性という意味から発して,抽象てきん出発点・成行き・原因などの意味にまで広がって用いられる。助詞カラもこの語の転」

とあり,

「この語は現在も満州族。蒙古族では社会生活上の重要な概念であるが,日本の古代社会には,ウヂ(氏)よりも一層古く入ったらしく,奈良時代以後,ウヂほどには社会組織の上で重要な役割を果たしていない。なお朝鮮語ではkyöröi(族)の形になっている」

とある。助詞「から」についても,

「語源は名詞『から』と考えられる。『国から』『山から』『川から』『神から』などの『から』である。この『から』は,国や山や川や神の本来の性質を意味するとともに,それらの社会的な格をも意味する。『やから』『はらから』なども血筋のつながりを共有する社会的な一つの集りをいう。この血族・血筋の意から,自然のつながり,自然の成り行きの意に発展し,そこから,原因・理由を表し,動作の出発点・経由地,動作の直接続く意,ある動作にすぐ続いていま一つの動作作用が生起する意,手段の意を表すに至ったと思われる」

とする。『大言海』は,「から」に,

自・従,

と当てて,

「間(から)の轉用」

とするが,『広辞苑第5版』も,

「万葉集に助詞『が』『の』に付いた例があり,語源は体言と推定でき,『うから』『やから』『はらから』などの『から』と同源とも。『国柄』『人柄』の『柄(から)』と同源とも」

とする。「柄」が「族」と同源なら,元は一つということになる。『日本語源広辞典』も,

「『うから,はらから,やから』と同源で,『血の繋がり』から転じた語です。転じて自然の繋がりを意味し,原因理由を示す接続助詞になった語です」

とする。

この「から」の由来は,諸説あり,

ツングース所族にける外婚的父系同族組織のハラ(xala)の系統をひくもの(日本民族の起源=岡正雄),
一族を意味する満州族のハラ(hara),ツングースのピラル,クマル,興安嶺方言のカラ(kala),オロチ,ゴルジ,ソロンの方言のハラ(xala)と同じ起源(日本語の起源=大野晋),
カラ(体),また,コラ(子等)の転義(大言海),
「系」の字音カに,ラ行を添えたもの(日本語原学=与謝野寛),

などの中で,「から(族)」について,

子等(こら)の轉(大御田子等(オホミタコラ),オホミタカラ),子族(みより),

記すのが,一番気になる。音は,ツングース系かもしれないが,僕には,和語の文脈依存性からみて,もっと身近なところから意味が由来している,と思うからだ。『大言海』は,「みより」(身寄)に,

うから,

の意を載せる。「うから」は,

親族,

と当てる。

「奈良時代はウガラ。カラは血族集団の意」

とする。『大言海』は,

「生族(うみから)の略。子孫(うみのこ)の意(うみぢ,うぢ(氏)。ヤカラは家族(やから)なり)」

とする。これにも,大言海説以外に,諸説ある。

ウムカラ(生属)の義(和訓栞),
ウマレカラ(生族)の意か(古事記伝),
ウカラ(生幹)の義(国語の語根とその分類=大島正健),
ウは生,カラは自・間の意(東雅),
ウジカラ(氏族)の義(言元梯・名言通・俗語考),
内族の義(日本語源=賀茂百樹),
ウは大,カラは幹で,幹の意から団体の義に転用(日本古語大辞典=松岡静雄),
『嫗系』(U-Ka)にラ行を゜添えたもの。ウカラの原義は同じ母系の子(日本語原学=与謝野寛),

等々。やはり「うむ(生・産)」と関わるとみていい。「うむ」は,

「生を訓みて宇牟(うむ)と云ふ」

とあり(古事記),「うむ」の語源は,

「子を生む時に発するうなり声から出た語(国語溯原=大矢徹・日本語原学=林甕臣・国語の語根とその分類=大島正健),
「ウの音は最も発音しやすい音であるため。自然に行われる動作について,ウの音を語根とした」(俗語考),

と,どうも生まれるときの声なのではないかと推定される。「うから」はその声を同じくするものの意ではあるまいか。

ついでに,「ともがら」「やから」をみると,

「『うがら』は血族を指すが,『やから』は語構成からみてそれより広い範囲の同族を指はたらしい。その分『ともがら』に近く,そこから見下した語感が生じた」

とある(『日本語源大辞典』)。

はらから→うから→やから→ともがら,

といった意味の広がりではあるまいか。「はらから」は,広く同胞の意味で使われるが,

同じ母親から生れた兄弟姉妹,

を指す。『大言海』は,

同胞,

とともに,

同母,

とも当てる。

腹続(はらから)の義,

とする。「ともがら」は,

輩,
儕,
儔,
徒,
儻,

等々と当てる。『大言海』は,

伴族の義,

とする。

友族(俚言集覧・菊池俗語考・日本語源=賀茂百樹),

なども同じである。「やから」は,

族,
輩,

と当て,

ヤは家,

とある(『岩波古語辞典』)。

一族,

の意である。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 05:08| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください