2019年02月27日
ゆうまぐれ
「ゆうまぐれ」は,
夕間暮れ,
と当てる。
「『まぐれ』は目暗れ」の意」
とある(『広辞苑第5版』)。『大言海』も,
「目暗れにて,目くれふたがりて,物の見えぬ頃なれば云ふか」
とし,『岩波古語辞典』も,
「目昏れの意」
とする。つまり,この「まぐれ」は,
目暗(昏)れ,
の意である。「昏」(コン)の字は,
「会意兼形声。民は,目を↑型の針でつぶしたさまを示す。目が見えず暗い意を含む。昏は『目+音符民』。物が見えないくらい夜のこと。のち,唐の太宗李世民が自分の名の民を含んでいるために,その字体を『氏+日』に代えさせた」
とあり(『漢字源』),暗につながる。「暗」(漢音アン,呉音オン)の字は,
「会意兼形声。音は,言の字の口に・印を加えた会意文字で,ものをいう口の中に何かを含んでくちごもるさま。諳(くちごもって明白に発音せず,頭の中で覚える)のものになる字。暗は『日+音符音』で,中に閉じこもって日光のささないこと」
とあり(仝上),闇につながる。この「まぐれ」は,
眩れ,
とあてる。
目が眩む,
眩暈,
意である。この「まぐれ」は,「まぐれ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/455971650.html)で触れたように,
紛れ,
と当てる「まぐれ」,
物の中に入り混じって目立たないようになる,しのび隠れる,
弁別できなくなる,
あれこれと事が多くて忙しい,
筋道が分からなくなる,
他の物事に心が移る,
という意味の「まぐれ」とつながる気がする。しかし,『大言海』は,
「目霧(まぎ)るの転訛と云ふ」
とし,他も,
目霧の義か(和訓栞),
メガヒアルル(目交荒)の義(日本語原学=林甕臣),
ミキレル(見切)の義(名言通),
マキル(間切)の義(言元梯・国語の語幹とその分類=大島正健)
マは間,ギは限を極めない意,マギルはマギ入の約(国語本義),
諸説,「紛れ」と「眩れ」は別とする。しかし,「眩れ」の語源,
マは目の義,クルはクラムの約,また暮れの義(名語記),
マグレ(目暗れ)ルの義(松屋筆記),
目暗れにて,目くれふたがりて,物の見えぬ頃なれば云ふか(大言海),
と比べた見たとき,
眩しさ,
と
紛れる,
との差は,はっきりしない。「紛れ」を,
「『眼前に霧がかかる』という意のマギル(目霧る)は『区別しがたい』意のマギル(紛る)・マギレル(紛れる)・マギレ(紛れ)になったが,それぞれマグル・マグレル・マグレに転音した。マグレアタリ(紛れ当たり)」
といい(『日本語の語源』),「眩れ」を,
「『目を離さないでじっと見つめる』ことをメモル(目守る)といったのがマモル(守る)になった。『目くらむ,めまいを感じる』意のメクル(目眩る)はマクル(眩る)になった。」
とする(仝上)。一方は,眩しくて,「まぐれ(眩る)」,他方は,物の形が定かならなくて,「まぐれ(紛れ)」,いずれも,定かに物の区別がつかない状態であることに変りはない。
少なくとも,「ゆうまぐれ」の「まぐれ」は,
眩れ,
というより,
紛れ,
に思える。前にも触れたが,一方は,眩しさで,「まぐれ(眩れ)」,他方は,ぼんやりと「まぐれ(紛れ)」まったく区別をつけたのは,「眩」と「紛」の漢字ではなかったのか。光りが眩しくて弁別が付かないのか,影と陰の区別がつかずぼんやりとしていて弁別が付かないのかの区別はなく,いずれも,
まぐれ,
だったのではあるまいか。もともとは,
まぎれ,
だったのではないか。「眩」と「紛」を当てはめることで,光の眩しさと,夕暮れの眩しさとが,区別された。「夕間暮れ」ににつて,
「『まぐれ』は目暗れの意」(『広辞苑』)
「マグレはマ(目)クレ(暗)の意」(『岩波古語辞典』)
「マグレは目暗(まぐ)れにて,目のくれふたがりて物の見えぬ比を云ふ」(『大言海』)
とあるのは,「眩れ」よりも「紛れ」の「まぐれ」に思えてならない。
なお,逢魔が時(http://ppnetwork.seesaa.net/article/433587603.html)については,すでに触れた。
(広重「東海道五十三次」沼津・黄昏 http://chisoku.jp/collection/au-0014/i00378/より)
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
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書評
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