ちまた
「ちまた」は,
巷,
岐,
衢,
と当てる。
「道 (ち) 股 (また) 」の意,
らしい。どうやら,
道の分かれるところ(「八十の巷に立ちならし」),
↓
(物事の分かれ目(「生死の巷をさまよう」))
↓
町の中の道路,街路(「南北に大きなる一つの巷あり」),
↓
人が大ぜい集まっているにぎやかな通り,町中 (まちなか)(「紅灯の巷」),
↓
(ある物事が盛んに行われている)ところ,場所(「弦歌の巷」「修羅の巷」),
↓
世間(「巷の噂」),
といった流れで,「岐路」に準えて,意味の外延がひろがっていったものらしい。
(歌川広重「東海道五拾三次」元町別道 戸塚の夕景。「こめや」という茶屋は、米で作った餅菓子で有名だった。図の中央の石柱には「左りかまくら道」とあり、鎌倉への分れ道。://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E6%B5%B7%E9%81%93%E4%BA%94%E5%8D%81%E4%B8%89%E6%AC%A1_(%E6%B5%AE%E4%B8%96%E7%B5%B5)より)
「『分かれ道』に集落,つまり街を形成することが多く,町の通り,街の意」
とある(『日本語源広辞典』)のが,分かれ道,街路,街とつながる意味が納得できる。
「巷」(漢音コウ,呉音ゴウ)の字は,
「会意兼形声。『人のふせた姿+音符共』。人の住む里の公共の通路のこと。共はまた,突き抜ける意から,突きぬける小路のことと解してもよい」
とあり,街路,世間,の意で分かれ道の意はない。
「岐」(漢音キ,呉音ギ)の字は,
「会意兼形声。支はも細い声だを手にした姿で,枝の原字。岐は『山+音符支(キ・シ)』で,枝状のまたにわかれた山,または,細い山道のこと」
で,枝道のこと,分岐,岐路と使う。
「衢」(漢音ク,呉音グ)の字は,
「会意兼形声。瞿(ク)は『目二つ+隹(とり)』からなり,鳥があちこちに目をくばること。衢は『行(みち)+音符瞿』で,あちこちが見える大通り」
で,四方に通じる大通り,巷の意で,直接的に分かれ道を示していない。巷,岐,衢と漢字を当て分けたのは,先人たちの苦労の跡,ということになるのかもしれない。
ミチマタ(道股)→チマタ(巷),
とする説(『日本語の語源』)もあるが,
道,
は,
ち,
とし,『大言海』は,「ち(道・路)」は,
ツ(津)に通ず,
とし,「道饗祭(ちあへ)」(祝詞)「道別(ちわき)」(神代紀)等々,
熟語にのみ用ゐる,
とする。また,
連声には濁る,
とする。例えば,「天漢道(あまのかはぢ)」「天道(あまぢ)」等々。『岩波古語辞典』には,「ち(道・方向)」は,
「道,または道を通って行く方向の意。独立して使われた例はない。『~へ行く道』の意で複合語の下項として使われる場合は多く濁音化する」
とある。「道 (ち) 股 (また) 」でよさそうである。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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