2019年03月06日

つぶら


「つぶら」は,

円ら,

と当てる。

まるい,

意である。

つぶらな瞳,

という言い方をする。そのさまを,

つぶらか,

とも言ったらしいが,今日あまり使わない。

『岩波古語辞典』には,

「ツブ(粒)と同根」

とあるが,

『大言海』は,

「水觸(みずぶれ)の略轉。楫(かじ)に觸れて圓(まろ)きこと。水の鳴る音より云ふか」

とあり,

「角なくなりて圓(まろ)きこと,まどか,略してつぶ」

という意味が載るが,「つぶらに」の項では,

「粒の如き意」

が載る。

つぶらかに,
まどかに,

という意味が重なる。どうやら,

粒,

とつながるが,語源は,擬音らしい,と思われる。「まどか」http://ppnetwork.seesaa.net/article/429564623.htmlについては,触れたが,

「平面としての『円形のさま』は,上代は『まと』,中古以降は加えて,『まどか』『まとか』が用いられた。『まと』『まどか』の使用が減る中世には,『丸』が平面の意をも表すことが多くなる。」

と(『日本語源大辞典』),本来,「まろ(丸)」は,球状,平面の円形は「まどか(円)」と,使い分けていたが,「まどか」の使用が減り,「まろ」は「まる」へと転訛した「まる」にとってかわられた,ということのようだ。『岩波古語辞典』の「まろ」が球形であるのに対して,「まどか(まとか)」の項には,

「ものの輪郭が真円であるさま。欠けた所なく円いさま」

とある。平面は,「円」であり,球形は,「丸」と表記していたということなのだろう。漢字をもたないときは,「まどか」と「まる」の区別が必要であったが,「円」「丸」で表記するようになれば,区別は次第に薄れていく。いずれも「まる」で済ませたということか。『日本語源大辞典』には,

「『まと』が円状を言うのに対して『まろ』は球状を意味したが,語形と意味の類似から,やがて両者は通じて用いられるようになる」

とある。なお,「まとか」が,「まどか」と濁音化するのは,江戸時代以降のようである。

「つぶ」は,『大言海』は,

つぶら(圓)の義,

とし,『岩波古語辞典』は,「つぶ」に,

丸,
粒,

とあて(『岩波古語辞典』),

「ツブシ(腿)・ツブリ・ツブラ(円)・ツブサニと同根」

とある。「ツブシ」が粒と関わるのは,「くるぶし」http://ppnetwork.seesaa.net/article/458644074.htmlで触れたように,「くるぶし」は載らず,

つぶふし,

で載り,

「ツブ(粒)フシ(節)の意」

とある。「和名抄」を引き,

「踝,豆不奈岐(つぶなぎ),俗云豆布布之(つぶふし)」

とあるので,

つぶふし,
つぶなぎ,

が古称かと思われ,その箇所(くるぶし)を,「粒」という外見ではなく,回転する「くるる」(樞)の機能に着目した名づけに転じて,「くるぶし」となったからである。

「つぶら」は,擬音由来かどうかははっきりしないが,「つぶら」は,

粒,

と関わるとされ,「ツフ」は,

ツブラ(円)の義,

とされる。「ツブ」は,

ツブラ(円),

と関わる。「粒」は,

円いもの,

と,何やら同義反復めくが,ほぼ同じと見なしたらしいのである。そう思うと,「つぶらな瞳」には,丸い意だけではなく,粒の含意がありそうな気がする。

なお,「まる(円・丸)」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/461823271.html)は触れた。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評

ラベル:つぶら 円ら
posted by Toshi at 04:56| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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