「さかひ(い)」は,
境,
界,
堺,
等々と当てる。「境」(呉音キョウ,漢音ケイ)の字は,
「会意兼形声。竟(キョウ)は『音+人の形』の会意文字。また『章(音楽のひと区切れ)の略体+人』と考えてもよい。人が音楽の一楽章を歌い終って区切りを付けるさまを示し,『おわる』と訓じる。境は『土+音符竟』で,土地の区切り」
とあり,「国境」の意のさかいであり,「境内」の一定の範囲の場所,「環境」の周りの状態の意である。
「界」(漢音カイ,呉音ケ)の字は,
「会意兼形声。介(カイ)は『人+ハ印』の会意文字で,人が両側から挟まれた中に介在するさま。逆にいうと,中に割り込んで両側に分けること。界は『田+音符介』で,田畑の中に区切りを入れて,両側にわけるさかいめ」
とあり,「境界」のさかいめ,「業界」のように,区切りの中の領域や社会の意。
「堺」(漢音カイ,呉音ケ)の字は,
「会意兼形声。介(カイ)は『人+ハ印(左右にわける)』をあわせて,人を中心にして,その両側を区切ることを示す。界は,それに田を添えて,他の区切りを示す。堺は『土+音符界(他の区切り)』で,土地の区切りのこと」
とある(『漢字源』)。
(スイス・イタリア国境、サン・ジャコモ峠の国境の礎石 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E5%A2%83)
「さか」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/464597674.html?1552420059)で触れたが,
さか(坂)
と
さか(境・堺)
とは同意であったのではないか,と思うが,『広辞苑第5版』には,
「サカフの連用形から」
とある。
土地の区切り,
わかれ目,
を指す。『岩波古語辞典』の「さかひ」(動詞,四段)に,
「サカ(坂)アヒ(合)の約」
とある。「サカフの連用形」とはこの意である。しかし,『大言海』は,逆で,
「境(サカ)を活用す(色ふ,歌ふ,顎(あぎと)ふ)」
とする。名詞「さかひ(境・界・堺・疆」を見ると,
「境ふの名詞形。此語坂合(さかあひ)の約なりと云ふ説もあれど,境界は山に限らず,平地にもあり」
とする。因みに,「疆」(漢音キョ,呉音コウ)の字は,
「会意兼形声。畺(キョウ)は『田二つ+三本の線』の会意文字で,くっきりと田畑を区切ること。彊(キョウ)はそれを音符とし,弓を加えた会意兼形声文字で,かっちりとした弓を示す。強・剛と同系のことば。疆は『土+音符彊』で,土地にくっきりとかたく区切りをつけたことを示す。」
とあり,「疆界」「無疆」など,境目,限りの意である。
「さか(境・界)」は,『大言海』は,
「サは,割くの語根,割處(さきか)の義なるべし。塚も,築處(つきか),竈尖(くど)も,漏處(くきど)なり(招鳥(ヲキドリ),をどり。引剥(ひきはぎ),ひはぎ)。此語に活用を付けて,境ふ,境ひと云ふ」
とするし,『日本語源広辞典』も,
「サ(割き・裂き)+カ(場所)」を語源とするサカフの連用形サカイ,
とする。「さか」そのものの語源としては妥当かもしれないが,もともと,『岩波古語辞典』の,「さか(境・界)」は,「さか(坂)」で触れたように,
「さか(坂)と同根」,
とし,
「古くは,坂が区域のはずれであることが多く,自然の堺になっていた」
こと,さらに,
「坂といわれる場所が地域区分上の境界をなしたり,交通路の峠をなしたりしている事例が少なくないこと」(『世界大百科事典 第2版』)
からみて,「さか(境)」と「さか(坂)」は,漢字が無ければ,同じ「さか」であったのではないか,と思う。この語源が,
割く處,
というのは,「さか(坂)」と「さかい(境)」の意味から考えても,妥当だとは思うが,説は,
堺ふの名詞形(大言海),
サカアヒ(坂合・坂間)の約(和字正濫鈔・和語私臆鈔・古事記伝・名言通・和訓栞・柴門和語類集),
以外に,
「さか(逆・傾斜地)」+「ヰ(用水)」で、傾斜地周辺の土地を意味する(https://folklore2017.com/gogen/004.htm),
土地と土地とかサカフ(逆)ことをいうところからで,ヒはアヒダ(間)の上下略か(和句解),
サハアヒ(放合)の義(言元梯),
等々があるが,やはり,「さか(坂)」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/464597674.html?1552420059)の結論と同じく,
さか(坂)
と
さか(境・堺)
とは同意であったのではないか,と思う。
ホームページ;
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コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
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書評
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