2019年03月17日

剣が峰


「剣が峰(剣ヶ峰)」(けんがみね)は,

「噴火口の周縁、主として富士山山頂にいう」

とある(『広辞苑第5版』)。つまり,

「富士山の最高峰であり、日本の最高標高地点3,776 mのことである。八神峰(はっしんぽう)の1つでもある。」

ということになる(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AB%E7%A5%9E%E5%B3%B0)。

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(富士山頂である剣ヶ峰 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%89%A3%E3%83%B6%E5%B3%B0より)


したがって,

「日本に複数存在する峰(山岳で、周囲より高まっている部分。頂き)や山の名前としての剣ヶ峰(けんがみね)および剣ヶ峯(けんがみね)は、古くからあった呼称から、あとあと名付けられたものと考えられる。」

ようである(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%89%A3%E3%83%B6%E5%B3%B0)。

そこから転じて,

相撲で,土俵のたわら。また,そこに足がかかって後がない状態をいう,

に転じる。つまり,

「ここを境にして体(たい)が残るか否かで勝敗が分かれる土俵際(どひょうぎわ)の、特に土俵の円周を形成する俵の一番高い所(上面)の呼称であり、『剣が峰でこらえる』などと用いられる」

とある(仝上)。これをメタファに,

事が成るか成らぬかのぎりぎりの分かれ目,
それ以上少しの余裕も無いぎりぎりの状態,
絶体絶命,
成否の決する瀬戸際,

等々意味で使われる。その意の慣用句として,

剣が峰に立つ,
剣が峰に立たされる,

がある。

「足がかりが無く、もう後の無い状態になる」(仝上)

という言い回しは,正に土俵際のメタファである。

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(剣ヶ峰山頂より見た八神峰 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AB%E7%A5%9E%E5%B3%B0より)


かたな(http://ppnetwork.seesaa.net/article/450320366.html?1549439317)については触れたが,「諸刃の剣」という意は,

「《両辺に刃のついた剣は、相手を切ろうとして振り上げると、自分をも傷つける恐れのあることから》一方では非常に役に立つが、他方では大きな害を与える危険もあるもののたとえ。」(『デジタル大辞泉』)

とあり,「両刃」の意となっている。だから,両刃は,

剣(つるぎ),

と呼ぶ。刀は,剣と対比されている。『岩波古語辞典』には,「つるぎ」について,

「(古事記・万葉集にツルキ・ツルギ両形がある)刀剣類の総称。のちに片刃のものができてからは,多く両刃(もろは)のものをいう。」

とあり,「かたな」については,

「カタは片,ナは刃。朝鮮語nal(刃)と同源。古代日本語文法の成立の研究の刀剣類は両刃と片刃とがあった。」

とある。『大言海』の「つるぎ(劒)」の項に,

「吊佩(つりはき)の約,即ち,垂佩(たれはき)の太刀なり。御佩刀(みはかし)と云ふも,佩かす太刀の義。古くは,太刀の緒を長く付けて,足の脛の辺まで垂らして佩けり。法隆寺蔵,阿佐太子筆聖徳太子肖像,又,武烈即位前紀『大横刀を多黎播枳(たれはき)立ちて』とあるに明けし」

とある。「剣」とは,

もろ刃の太刀,

を指す。太刀は,

「刀剣の形式を区分上でいう太刀は,長さがだいたい六〇糎以上で,刃を下に向けて佩いた場合に茎(なかご)の銘が外側に位置するものをいう。」

と定義される。「剣」は,

劒,
剱,

とも書く。「剣」(漢音ケン,呉音コン)は,

「会意兼形声刀『刀+音符僉(ケン・セン そろう)』で,両刃のまっすぐそろった刀」

である(『漢字源』)。「剣」は,

つるぎ,

と訓ませるが,「けん」は,漢音そのものである。

「みね」は,

峰,
峯,
嶺,

とも当てる。

山の頂,

の意である。それをメタファに,

物の高くなった所,

の意で使い,

刀の刃の背,棟(むね),
烏帽子の頂上,
櫛の背,

等々にも使う。「峰(峯)」(ブ,漢音ホウ,呉音フ)の字は,

「会意兼形声。夆は,△型に先の尖った穂の形を描いた象形文字に夂(足)印を加えて,左右両方から来て△型に中央で出あうことを示す。逢(ホウ 出会う)の原字。峰はそれを音符とし,山を加えた字で,左右の辺が△型に頂上で出あう姿をした山。封(ホウ △型の盛り土)ときわめて縁が近い」

とある(『漢字源』)。「嶺」(漢音レイ,呉音リョウ)の字は,

「会意兼形声。領(レイ)は,人体の上部,頭と胴をつなぐ首のこと。嶺は『山+音符領』で,人体の首に当たる高い峠」

で,「峰」は△型にとがった山,いただき,「嶺」は,髙いみねの続きで,少し含意はずれるが,いずれも,「みね」の意。

それを「みね」に当てた,その「みね」を,『大言海』は,

「ミは発語,ネは嶺なり」

とするが,『岩波古語辞典』は,

「ミは神のものにつける接頭語。ネは大地にくいいるもの,山の意。原義は神聖な山」

とする。『日本語源広辞典』は,

「ミ(御)+ネ(嶺・どっしりした高い山の頂)」

とし,「神格化された頂上」とする。かつて山はご神体であった。三輪山は,大物主大神を祀る大神神社の,

「神体山として扱っており、山を神体として信仰の対象とするため、本殿がない形態となっている。こうした形態は、自然そのものを崇拝するという特徴を持つ古神道の流れに大神神社が属していることを示すとともに、神社がかなり古い時代から存在したことをほのめかしている。」

というように(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E8%BC%AA%E5%B1%B1)。

「ね」は,

嶺,

と当てるが,

「ネ(根)と同根。大地にしっかりと食いこんで位置を占めているものの意。奈良時代には東国方言になってらしく,独立した例は東歌だけに見える。大和地方ではミネという。類義語ヲ(峰)は稜線の意」

とある(『岩波古語辞典』)。

富士の高嶺,

の「ね」である。

剣ヶ峰,

が富士山の頂上を指すのは,富士山が,

神体山,

であったことともつながっているとみていい。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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