2019年03月20日

あせ


「あせ」は,

汗,

と当てる。

「汗水たらす」「汗を流す」「血と汗の結晶」「額に汗する」

とか,

「手に汗握る」「冷や汗をかく」「汗顔の至り」

といった汗にまつわる言い回しは少なくない。

「汗」(漢音カン,呉音ガン)の字は,

「形声。干(カン)は,敵を突いたり,たてとして防いだりする棒で,桿(カン こん棒)の原字。汗は『水+音符干』で,かわいて熱したときに出る水液。すまりあせのこと」

とある。

「あせ」は,

「血を阿世と称す」(延喜式斎宮寮)

と,斎宮の忌詞であったらしい(『岩波古語辞典』)が,「あせ」の語源は載せるものがほとんどない。

アはアツキ(熱),セはシと相通で汁(日本釈名),
アシ(熱水)の轉(言元梯),
アツシメリ(熱湿)の義(箋注和名抄・名言通・和訓栞),
アは暑い時出る故か,セはホセか(和句解),
アセミヅ(息迫水)の略(日本語源=賀茂百樹),

といずれも,苦しい。要するにはっきりしない。

汗衫,

とあてる「かざみ」は,

字音カンサムの轉,

とある(『岩波古語辞典』)が,『大言海』は,

汗衫,

を,

カニサムの略轉(案内,あない。本尊,ほぞん),

とし,「かにさむ(汗衫)」の項で,

「汗衫(カヌサム)の転。蘭(ラム),らに。錢,ぜに。約転してカザミと云ふは,衫(さむ)の轉。燈心,とうしみ」

とするので,『岩波古語辞典』と同じである。「汗衫」とは,

古くは,汗取りの服,

で,

「麻の単の一種です。奈良時代より一般の男女が夏に着ました。表着にも内衣にも用います。」

とあるhttp://www.so-bien.com/kimono/%E7%A8%AE%E9%A1%9E/%E6%B1%97%E8%A1%AB.html

後に,

「平安時代中期以後、後宮(こうきゆう)に仕える童女の正装用の衣服。「表着(うはぎ)」または「衵(あこめ)」の上に着用する、裾(すそ)の長い単(ひとえ)のもの。」

となる(『学研全訳古語辞典』)。

「脇縫いのない袖の長いもので、組みひもを袖につけたり、わざと縫いほころばしたり、さまざまな縫い方があります。男子服に似た仕立てで、婚礼、五節に用いられました。」

とある(仝上)。

kuge_dounyo.jpg


「汗衫装束(かざみしょうぞく)の特色は少女の中性的な面をよく表し、女子の服でありながら男子の服装の趣を多くもつことにあります。」

とある(仝上)。


熱けくにあせかきなげ,

と万葉集にあるほど,「あせ」は古くから使われていて,語源ははっきりしないが,「汗が滲む」のを,

汗あゆ,

といった。「あゆ」は,

零,

と『大言海』は当てるが,宮にはじめてまゐりたるころ,

「いかで立ちいでしにかと、あせあえていみじきには」

と枕草子にあるのは,零れるより,「滲む」の方が含意としてはふさわしいかもしれない。

しかし「あゆ」は,

「アヤシ(落)の自動詞形。アヤフシ(危)・アヤブミのアヤと同根」

とある(『岩波古語辞典』)ので「こぼれる」が意味としては正しいようだ。

汗を使った慣用表現は多く,中国からも,

綸言汗の如し,
とか,
汗牛充棟,

等々がある。「綸言汗の如し」は,我が国では今日死語同然だが,

「『漢書‐劉向伝』の『号令如汗、汗出而不反者也、今出善令一、未能踰時而反、是反汗也』から) 君主の言は、一度出た汗が再び体内にもどらないように、一度口から出たら、取り消すことができない。」

で(『精選版 日本国語大辞典』),「汗牛充棟」は,つい密集している喩えに使いそうだが,

「心をおさめんために、汗牛充棟(カンキウシウトウ)に及ぶ書を尽しみるといふとも」

と「信長記」にあるように,

蔵書が非常に多いことのたとえ,

で,

「柳宗元『唐故給事中陸文通墓表』の『其為書、処則充棟宇、出則汗牛馬』から出たことばで、ひっぱるには牛馬が汗をかき、積み上げては家の棟木(むなぎ)にまで届くくらいの量の意) 蔵書が非常に多いことのたとえ。」

とか(仝上)。

0000000012292.jpg



参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル: あせ
posted by Toshi at 05:04| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください