「ハコベ」は,
繁縷,
蘩蔞,
と当てる。ナデシコ科ハコベ属(Stellaria)の総称。別名,コハコベ(小繁縷)。茎が緑色なのでミドリハコベともいう。ただ,漢字名の「繁縷(ハンロウ)」は、生薬の名前だとか。
ハコベラ,
または,
アサシラゲ,
の古名がある。
芹なずな 御形はこべら 佛の座、すずなすずしろ これぞ七草,
の歌にある,
春の七草,
の一つである。ちなみに,「御形」はハハコグサ、「佛の座」はコオニタビラコであるとするのが定説,とか。
(コハコベ (Stellaria media) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%82%B3%E3%83%99より)
「平安時代の後期の文献に『君がため 夜越しにつめる 七草の なづなの花を 見てしのびませ』の歌があるとされるので、七草を摘むという風習は平安時代には既にあったと考えられます。ただ、七草の対象となっていた草本はまちまちで、地方によっても異なっていたようです。」
とある(http://www.geocities.jp/tama9midorijii/ptop/kogop/kohakobe.html)し,
「平安時代から食用の記録が残り、『倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』には野菜(当時は文字どおりの野の菜)の一つとして、波久倍良(はくべら)の名が載る。鎌倉後期の『年中行事秘抄』には、宮中で用いる七種菜(ななくさのな)に(はこべら)の名があがる。ハコベは異名や方言が多いが、ハコベの名は『下学集(かがくしゅう)』に初見する。江戸時代には種子を播(ま)いて育てたことが『百姓伝記』にみえ、はこべ汁(『料理物語』)などにして食べられた。また、干して粉にしたのを塩と混ぜたハコベ塩を歯みがきに使う習俗もあり、現在も歯茎の出血を防ぐ目的で使われることがある。」
とあり(日本大百科全書(ニッポニカ)),
「花期の3~6月に地上部の茎葉を刈り取り、水洗い後、天日干しにしたものを生薬名『繁縷(ハンロウ)』といい、産後の浄血薬、催乳薬、胃腸薬や湿疹などの皮膚炎の治療薬として用いられてきました。また、同粉末に適量の塩を混ぜたものを『ハコベ塩』と呼び、これを指に付けて、歯茎をマッサージすることにより、歯茎からの出血、歯槽膿漏の予防に用いられてきました。江戸時代には既に使われていた葉緑素入りのハコベ塩はまさしく『歯磨き粉の元祖』とも言えます。」
ともあり(https://www.pharm.or.jp/flowers/post_6.html),古くから馴染みがある。
『大言海』は,「はこべら」の項で,
はくべら(繁蔞)に同じ,
とする。名義抄には,
「繁蔞,はこべら,ハクベラ」
と載る。「ハクベラ」の項で,「ハコベ」の古名で,
「葉配(ハクバリ)の転かと云ふ」
とある。倭名抄には,
「繁蔞,鶏腸草,八久倍良」
本草和名には,
「繁蔞,一名,鶏腸,波久邊良」
和訓栞には,
「はくべら,…葉をくばりしくりーの義にや,いまは,ハコベといへり」
等々とあるという(仝上)。「鷄腸草」も「蘩蔞」と同じく,由来のようである。どうやら,
波久倍良(ハクベラ)→ハコベラ→ハコベ,
という転訛らしい。微妙に違うのは,
「ハビコルナ(蔓延る菜)は,ルナ[r(un)a]が縮約されてハビコラに転音し,『ビコ』の転位でハコビラ・ハコベラ(繁蔞)・ハクベラ(和名抄)などの語形を経てハコベになった」
とする(『日本語の語源』)説だ。しかし,繁茂しているさまは,確かに,蔓延(はびこ)る感じではある。
はびこる→はこびる→はこべら→はこべ,
の転訛もある。同じく生態をとらえた、
はいずる→へえずるの派出とみられるへずる、ひずる系の方言,
が西日本に多い(日本大百科全書(ニッポニカ)),とある。
茎は柔らかく地表をは,
という生態からの見方の方が自然に思える。
『語源由来辞典』(http://gogen-allguide.com/ha/hakobe.html)は,
「ハコベは,『ハクベラ』が転じた『ハコベラ』が更に転じた語で,春の七草のひとつとして挙げる際には『ハコベラ』と呼ぶことが多い。ハクベラ(ハコベ)の語源は諸説あり,『葉配り』の轉とする説。『ハク』は『帛』で茎から出ている白い糸を『帛(絹)』に見立てたもの,『ベラ』は群がる意の古語とする説。『ハク』は漢字の『繁』の漢音『ハン』で草が茂ること,『ベラ』は漢字『婁(ル)』で茎が長く連なった草の意のことで,漢語『ハンル(繁婁)』の音変化とする説。『ハク』は二股に分かれた茎に小さな葉がつき,小さな飾りの袴を腰に穿いているようであることから,『穿く・佩く(はく)』の意味,『ベラ』は股の外側に付いた葉っぱを指したもので『花弁(はなびら)』や『草片(くさびら)』の『びら』と同源とする説がある。漢語『ハンル(繁婁)』の説は,ハコベの漢字『繁縷』にも通じ,意味も分かりやすく発音も近いように思えるが,『ハクベラ』への音変化は難しい。『ベラ』は『花びら』などの『びら』と同源とするのが一番自然に思えるが,『ハク』については判定が難しい」
と,諸説を挙げるが,「はこべ」は花ではなく,葉の方に人の関心が向いている。花びらとつなげるのは,食用ハコベ実態と離れている。
「ユーラシア原産で、農耕に伴って世界中に広まった史前帰化(しぜんきか)植物とされています。ハコベの和名は古名の『はこべら』や『はくべら』が転訛したものですが、語源は『蔓延芽叢(はびこりめむら)』、『歯覆(はこぼるる』、『葉采群(はこめら)』などの諸説があります。ハコベは食用や薬用にしたり、柔らかい草質からニワトリや小鳥のえさとしてよく知られており、『ハコビ』、『ヒズリ』、『ヘズリ』、『アサシラベ』、『ヒヨコグサ』など各地でそれぞれの方言で呼ばれています。英語でもハコベを「chickweed(=ヒヨコの草)」と呼んでいます。」
とする(https://www.pharm.or.jp/flowers/post_6.html)説から見て,
はびこる,
と絡めるのが妥当に思えてならない。
参考文献;
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95