2019年03月30日

なずな


「なずな」は,

薺,

と当てる。春の七草の一つである。田畑や荒れ地、道端など至るところに生える,

ぺんぺん草,
三味線草,

である。

「若苗を食用にする。かつては冬季の貴重な野菜であった。貝原益軒は『大和本草』で宋の詩人蘇軾を引用し『「天生此物為幽人山居之為」コレ味ヨキ故也』(大意:『天は世を捨て暮らしている人の為にナズナを生じた』これは味が良いためである)と書いている。」

とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%82%BA%E3%83%8A)。ただ,「曾丹集(十一世紀初)」に,

「み園生のなづなのくきも立ちにけりけさの朝菜に何を摘ままし」

とあり,

「朝の菜として食したことがわかる。ただし、この詞書には『三月終』とある。『万葉集』には見えず、八代集でも『拾遺集‐雑春』の『雪を薄み垣根に摘めるからなづななづさはまくのほしききみ哉〈藤原長能〉』の一首が見えるだけであるが、これは『なづさふ』を導き出す序詞なので、平安前期は和歌の景物、春の七草という意識はなかったらしい。その後、和歌に用いられる時は『摘む』物として取り上げられ、平安後期になって『君がため夜ごしにつめるなな草のなつなの花を見て忍びませ』〔散木奇歌集‐春〕のように、七草の一つと考えるようになったらしい。」

とある(『精選版 日本国語大辞典』)ので,七草入りは,平安後期以降らしい。

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「薺」(漢音セイ,呉音ザイ)の字は,

「会意兼形声。『艸+音符齊(セイ そろってならぶ)』で,小さな花をつけた茎が揃って並ぶ,なずな」

の意である。

「ムギ栽培の伝来と共に日本に渡来した史前帰化植物と考えられている」

とあり(仝上),かなり古くからある。

「民間薬として陰干ししたのちに煎じたり、煮詰めたり、黒焼きするなどしたものは肝臓病・解熱・血便・血尿・下痢・高血圧・止血・生理不順・腹痛・吐血・便秘・利尿・目の充血や痛みに効き、各種薬効に優れた薬草として用いられる。」

ともある(仝上)。なかなか重宝な植物である。

「薺は生ゆること済々たり故に之を薺と謂う」

と『本艸』にあるとか。で,

「ナズナを行燈につり置くと虫よけになるという」

とか(『たべもの語源辞典』)。

『大言海』は,

「撫菜(なでな)の義にて,愛ずる意かと云ふ」

とある。「撫子」を「愛児に擬し」愛ずる意としたのに似て,いささか,いかがわしい気がする。「倭名抄」には,

「薺,奈都那」

とある。『語源由来辞典』も,諸説挙げつつ,

「ナズナの歴史的仮名遣いは『ナヅナ』で,その語源には、撫でいつくしむ草の意味で『撫で菜』とする説。ナズナは夏に枯れるところから,『夏無(なつな)』とする説。苗が地について縮まっているところから,『滞(なず)む菜』の意味とする説。『野面菜(のつらな)』が変化し,『ナヅナ』になったとする説がある。ナズナ(ナヅナ)の後方の『ナ』は『菜』のことと考えるのが自然で,枯れる時期が名前になることはまずないため,『夏無』の説は考え難い。断定は難しいが,ナズナは古くから薬用として食べられ,音変化も自然なことから『撫で菜』の説がゆうりょくであろう。」

と,撫菜説を権威ぶって請け合うが,「薬用として食べ」ることと「撫ぜる」こととどうつながるのか,ほとんど説明がない。この説の根拠を説明するのは,

「菜を摘んで細かく刻んで七草粥に入れた。ナヅ(ズ)ナは,菜が美味なところから,撫で愛でる菜の意の『なで菜』からである。」

という(『たべもの語源辞典』)ことだろう。薬用ということだけと撫でたとは思えない。『たべもの語源辞典』が,夏無説,夏無き説,と並んで挙げた,

ノツラナ(野面菜),

が,僕には生態をよく示していると感じられてならない。

『日本語源広辞典』は,

「ナヅ(撫で愛ず)+ナ(菜)」

説以外に,

「朝鮮語nasi nasinの変化」

を挙げる。大勢は,

撫で愛ずる説,

のようだが,「撫子」にも使った語源説で,撫でるのはナズナやナデシコだけではあるまい。僕は,

ノツラナ(野面菜),

に与する。こんなにあちこちに見かける草はない。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
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スキル事典;
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書評
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posted by Toshi at 04:23| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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