「ブリ」は,
鰤,
と当てるあの「ブリ」である。「鰤」(シ)は,
「一説に,これを食うと死ぬという毒魚」
とある(『漢字源』)。また,漢字の「鰤」のつくり,
「『師』は年寄りの意味を表し、年をとった魚・老魚の意味がある。また、冬は特においしいので『師走しわすの魚』ということも表している。」(https://zatsuneta.com/archives/001770.html)
「ブリは出世魚と呼ばれ最終的にたどり着いたところが『ブリ』。つまり人間でいうところの先生(師)の位に辿り着いたわけ。だから魚に師と書いて鰤」(https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10167227310)
等々とこじつけるものもある。
この魚は,出世魚といわれるほど,成長するにつれて名前が変わる。たとえば,
ワカシ→イナダ→ワラサ→ブリ(東京地方),
ツバス→ハマチ→メジロ→ブリ(大阪地方)
とある(『広辞苑第5版』)。その変化は,
関東 - モジャコ(稚魚)→ワカシ(35cm以下)→イナダ(35-60cm)→ワラサ(60-80cm)→ブリ(80cm以上)
北陸 - コゾクラ、コズクラ、ツバイソ(35cm以下)→フクラギ(35-60cm)→ガンド、ガンドブリ(60-80cm)→ブリ(80cm以上)
関西 - モジャコ(稚魚)→ワカナ(兵庫県瀬戸内海側)→ツバス、ヤズ(40cm以下)→ハマチ(40-60cm)→メジロ(60-80cm)→ブリ(80cm以上)
南四国 - モジャコ(稚魚)→ワカナゴ(35cm以下)→ハマチ(30-40cm)→メジロ(40-60cm)→オオイオ(60-70cm)→スズイナ(70-80cm)→ブリ(80cm以上)
等々(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%AAに譲るが),地域差が大きいが,成魚(80cm以上)を「ブリ」というのは同じようである。
(フグとブリを描いた歌川広重「広重魚尽」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%AAより)
「ブリの古名は,ハリマチである。小さいものをワカナゴと呼んだが,これがワカシとなった。ハリマチの名は今はハマチ(魬)とになった」
とある(『たべもの語源辞典』)。「和漢三才図絵」には,
「鰤,…和名波里萬知,略曰波萬知」
とある。「ハリマチ」は平安時代には,使われている。古名が,端々に,出世魚の中に残っていることになる。
『大言海』は,
アブラの略轉か,
とするが,これは,
「江戸時代の本草学者である貝原益軒が『脂多き魚なり、脂の上を略する』と語っており、『アブラ』が『ブラ』へ、さらに転訛し『ブリ』となったという説」
とする(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%AA)通じる。『語源由来辞典』は,
「ブリは,年を経た魚の意味で『フリウヲ(経魚)』と呼ばれ,『フリ』が濁音化され『ブリ』になったと考えられる。中国ではブリは『老魚』と言われていたため,日本でそれを言い表わしたのが『経魚』で代表的な出世魚であるため有力な説である。漢字の『鰤』が『魚』に『師』であることも,『老魚』や『経魚』の意味に通じる。ただし,中国にブリが入る時には,非常に大きく毒を持つとも言われているため,解釈は日本のものとは異なる。」
と(http://gogen-allguide.com/hu/buri.html),出世の「経年」を採る。また,
「老魚の意をもって年経りたるを 老りにより『ふり』の魚という」(「日本山海名産図絵」)
と記述されている,ともいう。
『たべもの語源辞典』は,
「年を経たという意で,フリが濁ってブリになった。九州でブリを大魚というので,鰤という字は,老魚・大魚の意であるというが,面白くない説である。ブリは,師走に最も味が良くなる魚,寒ブリと呼ばれるゆえんである。その師走の魚という意で,鰤としたとの説がよい。また,ブリはあぶらの多い魚なので,アブラのアを略し,ラとリが通じるのでブリとなったとの説は良くない。アブリ(炙)の上略という説もいただけない。体が大きいところからフクレリの略とか,ミフトリ(身肥太)の義とかの説があるが,いずれね良くない。」
と,「経年」のふり説なのか,師走の魚説なのかが,判然としないが,素人ながら,こういう語呂合わせにもったいぶった理屈をつける説は,あまり語感からみても良くない,と思うが如何であろうか。
『日本語源広辞典』は,二説挙げる。
説1は,「アブラ(脂)の変化」説,つまり,アブラ→ァブラ→ァブリ→ブリ,と。
説2は,アブリの変化,
である。
アブラ(脂)
か
アブリ(炙)
か
ふり(経)
か
というところだが,古名「ハリマチ」は平安時代には,使われているが,「ブリ」という名は,鎌倉時代の辞書が初見,ハマチは室町時代,とある(http://www.pref.kagawa.jp/suisan/kensan/files/hamachinohanashi.pdf)。経年を意識したのは,鎌倉時代末期,ブリの大きさによって名前を変えた,という。とすると,ブリの名は新しいのではないか。経年を意識したのと,ブリの名とが,何れが先かで,かなり変わる。僕は,
ハリマチ,
が,
ハマチ,
と転じる前に,ブリが意識されたとみていい。それは,「ハリマチ」を年経るながれの中に,位置づけ直した(室町時代)ということである。ブリは,その前に名があった(鎌倉時代),とみるのが自然になる。とすれば,
アブラ(脂)
か
アブリ(炙)
とみるのが順当に思るが,如何であろうか。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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