「葺く」は,
屋根を葺く,
の「葺く」である。「葺」(シュウ)の字は,
「会意兼形声。下部の字は,寄せ集める意を含む。葺はそれを音符とし,艸を加えた市場で,かや草などを寄せ集めること」
とある(『字源』)。
「名義抄」には,
「葺,フク,カサヌ」
とある。
『日本語源広辞典』には,
「カタフク(傾く)の下の二音節」
とあり,
萱,茅,葦,板,瓦などを傾けて置き,屋根を覆う意,
とある。しかし,ちょっと,
kamuku→muku,
とするのは,どうだろ。他には,
もる雨をフセグ(防)義か,またフサグ(塞)の義か(和句解),
フク(吹)の転。雨が淀みなき所に付止る義(国語本義),
覆の音から(外来語辞典=荒川惣兵衛),
等々がある。ちょっと「覆」の音というのは惹かれるが,屋根葺が渡来とはがぎらない。
(登呂遺跡に復元された竪穴式住居 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8C%85%E8%91%BAより)
「日本でも縄文時代には茅を用いた屋根だけの住居が作られていたと考えられている。奈良時代以降の場合は板葺や樹皮葺であった可能性が検討されるが、弥生時代以前の遺跡(登呂遺跡など)で復元される竪穴式住居などの屋根は通常茅葺とされる。」
とある(仝上)ように,登呂の遺跡の再現には,少し疑問があるにしても,古くから葺いていたことはの間違いない。
「吹く」は,基本的に,息を吹く,とか,風が吹く,とか,精々法螺を吹く,程度の意味の外延しかなく,屋根を「ふく」に転用できるとは思えない。ただ,
葺く,
の意味に,
草木などを軒端などにさし飾る,
意がある(『岩波古語辞典』)。
紅葉を葺きたる船の飾りの,錦と見ゆるに(源氏物語),
あやめ葺く軒場涼しき夕風に〈玉葉集〉,
五月(さつき)、あやめふくころ、早苗とるころ(徒然草)
等々という用例もある。強引に「吹く」とつなげられなくもないが,無理筋だろう。
「屋根をおおうことを『葺(ふく))」
という(http://japanmeguri.seesaa.net/article/407274668.html),とある。とすると,
覆,
につながるが,これも,漢字を持たない時代を考えると,「覆」につなげるのは無理がある。結局分からないが,あるいは,漢字を持たない時,
葺く,
も
吹く,
も
拭く,
も
同じ「ふく」であった。あるいは,「振る」の古語,
振く,
揮く,
も「ふく」である。どうやら,「ふく」は広く使われていたらしい。臆説を挙げるなら,「振る」にある,
振り分ける,
割り当てる,
とつなげれば,「葺く」にもつながらなくもない。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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