拭く
拭く,
も
葺く,
も
吹く,
も
噴く,
も
振く,
も,
全て,
ふく,
であった。あるいは,語源は一つではないか,という気がしないでもない。文字を持たない祖先にとって,言葉は口頭での会話だけであった。文脈を共有する当事者にとって,「ふく」で,何を指しているかは明確で,区別の必要はなかった。文字表現になって初めて,意味の限定を必要とした。漢字は,不可欠となる。
「拭く」の「拭」は,
ぬぐう,
とも訓ませる。
「どちらも汚れ・水気などを取り去るために布や紙などを表面に当てて動かすことだが、『窓をふく』『食器をふく』のように、隅々までこすって全体をきれいにする意では『ぬぐう』は使いづらい。『ぬぐう』は部分的な汚れ・水気を取り去るという意が強い。…『ぬぐう』は、汚点やよくない印象などマイナス面を取り去る意にも用いられる。」
とある。あくまで,和語では,「ふく」と「ぬぐう」は別だったものに,「拭」の字を当てるから,面倒になっただけである。
「拭」(漢音ショク,呉音シキ)は,
「会意兼形声。式(ショク,シキ)とは『弋(クイ)+工』からなり,棒杙(ボウグイ)で工作すること。のち人工を加えて整える意となる。拭は『手+音符式』で,人工を加えときれいにすること」
とある(漢字源)。ふく,意も,ぬぐう,意もある。「ふく」と「ぬぐう」の区別は,文字化するとたいした差ではなく,眼前にそれを見ているものにとって,そのわずかな差のニュアンスが問題になるのではないか。
「拭く」は,
「拭き拂う意かと云ふ」
とあり(大言海),
ぬぐうと同じ,
とある(仝上)。『日本語源広辞典』は,二説挙げる。
説1は,拭き払うの変化,布を使い埃をとってきれいにすること,
説2は,「払の音(フツ)」の動詞化,拭い取る意,
とする。しかし,「払の音」を動詞化したというには,「払」が,「ふく」と同じ意で使われていること,つまり,説1と同じく「はらう」意だということを前提にしないと,説2は成り立たない。説2は,穿ち過ぎではないか。それなら,むしろ,「拭く」は,
吹く,
の意だったのではないか。つまり,「拭く」と「吹く」は同源だったのではないか。
ただ,『岩波古語辞典』には,
「ふく」
は載らず,
のごふ,
が載り,
「ぬぐふの古形」
とある。あるとすると,元々和語には,「ふく」意味の言葉は,
のごふ,
のみあったのかもしれない。としても,
払,
とはつながらない。因みに,「ぬぐう」は,
のごふの転,
とある(大言海)が,「のごふ」の語源は分からない。しかし,この言葉は,
てぬぐい(手拭い),
の中に残っている。「てぬぐい」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/461367725.html)で触れたように,「てぬぐい」は,
てのごひ,
また,
たのごひ,
とも(岩波古語辞典)いった,とある。「て(手)」は,古形が「た」なので,「たのごひ」というのも「てぬぐい」のことである。しかしこれ以上には辿れない。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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