「ヒラメ」は,
鮃,
平目,
平魚,
等々と当てる。「鮃」は,
「会意兼形声。『魚+音符平(たいら)』」
で,「ヒラメ」を指す。ヒラメとカレイの総称とか(『漢字源』)。「鮃」は平たい魚の意ということである。比目魚ともいうらしいが,「目が並んでいる魚」の意らしい(『たべもの語源辞典』)。
左ヒラメに右カレイ,
といい,
「黒いほうを上にし,腹を手前に置いて目が左にくればヒラメ,反対に右ならカレイ」
とか(『たべもの語源辞典』)。
(広重魚尽 ひらめ・めばるに桜https://www.benricho.org/Unchiku/Ukiyoe_NIshikie/hiroshigeuozukushi.htmlより)
しかし,ことはそう簡単ではないらしい。
「干ガレイ(デビラとかコノハガレイともいう)やカワガレイは目が左にある。ヒラメとカレイは稚魚の項ロバ,メは左右についている。海底生活をするようになって砂に接する側(裏)が白くなり反対のほうが黒っぽくなる。眼鏡の左・右ではカレイとヒラメの区別はむずかしい。むしろ,口の大きさでヒラメは大きくカレイは小さいというほうがよい。春夏にうまいのがカレイで,ヒラメは秋冬がうまい。」
ということらしい(仝上)。
「古くは,ヒラメとカレイの間の区別は明確ではなく,ヒラメはカレイの一種という扱いであった」
らしい(『日本語源大辞典』)。
「漢字の『鰈(カレイ)』は『葉っぱのように平たい魚』という意味。現在ではヒラメ(鮃)とカレイ(鰈)で別々の漢字を用いて区別しているが、昔は区別していなかった。江戸初期の辞書『倭爾雅わじか』(1694年)では『比目魚ひもくぎょ』をカレイと読ませており、その際、カレイとヒラメは区別していない。」
ともある(https://zatsuneta.com/archives/001840.html)。両者の区別は,あまりされていなかったようである。
さて,「ヒラメ」の語源説は,
・平たく薄い魚だから(平魚と書き,特殊な眼鏡の付き方によって平目魚から)「ヒラメ」(になった)という説,
・目が並んでいるところから「比目魚」と書いて「ヒラメ」と呼んだという説,
・平見え「ヒラミエ→ ヒラメ」になった説,
・カタヒラ(半平)に目(メ)があるからという説,
・ヒラ(左片)に両目(メ)があるからという説,
・平べったい魚から,ヒラメとしたという説,
・平たい体に目が二つ並んでいることから「平目」とする説,
等々ある(http://allfishgyo.com/557.html,その他)らしいが,『大言海』は,
「片片(カタヒラ)に目ある意」
とし,『たべもの語源辞典』も,
「魚の名称は,その魚の特徴をつけるものなので,平たくて目が片側にあるというカタヒラメを略してヒラメというとしたい」
と,カタヒラメ説を採る。『日本語の語源』は,
「カタミエ(平見え)魚はヒラメ(比目魚。鮃)になった」
と,平らに見える状態から来たとする。『語源由来辞典』(http://gogen-allguide.com/hi/hirame.html)は,
「古語では,『平らなさま』を『ひらめ』というため,そのまま『平らな魚』で『ひらめ』。また,ヒラメの『メ』は『ヤマメ』『アイナメ』などと同じく,『魚』を意味する『メ』で『平らなメ(魚)』からとも考えられる」
と,平らになる,平らにするという動詞「平む」(自動詞,他動詞)からきたとする。名詞形は平らなさまの「ひらめ」である。
『日本語源広辞典』は,
「ヒラ(平ら)+メ(接尾語)」の,平らな魚,
「かたひらに目がある魚」
の二説挙げる。確かに,平らな魚の形態から,
ヒラメ,
もあるが,特徴を,目と見れば,
カタヒラメ→ヒラメ,
もある。どちらとも言い難いが,平らよりは,目の特徴を採ってみる。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
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コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
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書評
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