2019年04月09日

カツオ


「カツオ」は,

鰹,
松魚,
堅魚,

などと当てる。「鰹」(ケン)の字は,

「会意兼形声。『魚+音符堅(肉がしまっている)』」

で(『漢字源』),

「胴の大いなるもの」

の意(『字源』)で,

「おおうなぎ」

とする(『漢字源』)ものもあり,少なくとも,

カツオ,

でないことは確かである。もともと,

堅魚,

と書いていたものが,一字化し,

鰹,

となった(木工→杢,麻呂→麿)もののようである。

「カツオ」は,

カタウオの約,

とある(『広辞苑第5版』)。

「日本では古くから食用にされており、大和朝廷は鰹の干物(堅魚)など加工品の献納を課していた記録がある。カツオの語源は身が堅いという意で堅魚(かたうお)に由来するとされている。『鰹』の字も身が堅い魚の意である。」

とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%84%E3%82%AA)から,あえて,「鰹」の字をあてたのだろう。吉田兼好が,

「鎌倉の海に、鰹と言ふ魚は、かの境ひには、さうなきものにて、この比もてなすものなり。それも、鎌倉の年寄の申し侍りしは、この魚、己れら若かりし世までは、はかばかしき人の前へ出づる事侍らざりき。頭は、下部も食はず、切りて捨て侍りしものなりと申しき。かやうの物も、世の末になれば、上ざままでも入りたつわざにこそ候れ。」

と書いており(『徒然草』),かつては見向きされなかったものらしい。ただ鰹節(干鰹)は,

「神饌の一つであり、また、社殿の屋根にある鰹木の名称は、鰹節に似ていることによると一般に云われている。戦国時代には武士の縁起かつぎとして、鰹節を『勝男武士』と漢字をあてることがあった。織田信長などは産地より遠く離れた清洲城や岐阜城に生の鰹を取り寄せて家臣に振る舞ったという記録がある。」

という。そんな「カツオ」も,江戸時代には人々は初鰹を特に珍重したとかで,

目には青葉 山時鳥(ほととぎす)初松魚(かつお),

という句(山口素堂)もある。

「江戸においては『粋』の観念によって初鰹志向が過熱し、非常に高値となった時期があった。『女房子供を質に出してでも食え』と言われたぐらいである。1812年に歌舞伎役者・中村歌右衛門が一本三両で購入した記録がある。」

とか(仝上)。

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『大言海』は,

「頑魚(カタクナウヲ)の略轉」

とし,

「高橋氏文『以角弭之弓,當遊魚之中,即着弭而出,忽獲數隻,仍名曰頑魚(カタウヲ),此今諺曰堅魚』。今も牛角の鈎ニテ釣るなり,鰹は,借字の堅魚の合字なり,鰹節に因りて,堅き魚の義とする説あれど,海中に腊(きたひ 干物の意)なるはなし」

とあるので,

愚かであることから,カタウヲ(頑魚)の転,

説だが,この説明で,「カタウヲ」説にも,『大言海』が批判するように,

干すると堅くなる,

の「カタウヲ」説があり,

「干すと堅くなるので『かたうを』と呼ばれていた」(日本語源大辞典)
「古くは生で食べることはなく、干して食用にしたことから、堅い魚の意の『堅魚(かたうお)』が変化した語とされる(由来・語源辞典http://yain.jp/i/%E9%B0%B9)。

とするものがある。しかし,

「『カタシ(堅し)』の『カタ』に『ウヲ(魚)』で『カタウヲ』となり、転じて『カツヲ(カツオ)』になっ たといわれる。加工されていないカツオは,鎌倉時代まで低級な魚として扱われ,主に干し固めて食用としていたことや,肉がしまっていること,『万葉集』などには『堅魚(カツオ)』といった表記があることから,『カタウヲ』説は有力」

という説明(『語源由来辞典』http://gogen-allguide.com/ka/katsuo.html)などから見ると,大言海の揶揄にもかかわらず,

干すと堅くなる,

肉がしまっている,

の両方の意味が重なっていそうである。その他,『大言海』の,

愚かであることから,カタウヲ(頑魚)の転(高橋氏文・箋注和名抄・松屋筆記),
カツオは疑似餌ぎじえでどんどん釣れるくらい「頑かたくなな魚」だから、「カタウオ」(頑魚)→「カツオ」になったという説(https://zatsuneta.com/archives/001714.html),

以外に,

カチ(濃紺)+魚(日本語源広辞典),
釣り上げると木の棒で叩いたり,ぶつけたりして処置しておくことから,棒などで打ち叩く意味の『カツ(搗つ)』に『魚(うを)』で『カツウヲ』となり,転じて『カツヲ』となった(語源由来辞典・衣食住語源辞典=吉田金彦),
弱いイワシに対して、強い魚だから、「勝つ魚」→「カツオ」となったとう説がある。江戸時代には「勝つ魚」と語呂がよいことから武士の間で好まれた(https://zatsuneta.com/archives/001714.html),

等々もある。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:カツオ 松魚 堅魚
posted by Toshi at 04:09| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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