2019年04月16日

すずな


「すずな」は,

菘,
鈴菜,

と当てる。

カブラ,

とも言うが,

かぶ(蕪),

のことである。春の七草,

せり (芹),なずな (薺),ごぎょう (御形・五形),はこべら (繁縷・蘩蔞),ほとけのざ (仏の座),すずな (菘/鈴菜),すずしろ (蘿蔔・清白),

の一つとされる。

原産地は地中海沿岸、南ヨーロッパ地帯,アフガニスタン地方,

といわれている(食の医学館),とか。

「中国へは約2000年前に伝播し、『斉民要術(せいみんようじゅつ)』(530頃)には栽培や利用に関する詳細な記述がある。『三国志』で有名な蜀の軍師諸葛孔明が行軍の先々でカブをつくらせ、兵糧の助けとしたので、カブのことを諸葛菜(しょかつさい)とよぶというエピソードがある。」

とか(日本大百科全)。わが国に伝わったカブは

「ヨーロッパ型(小カブ)とアジア型(大カブ)の2種で、関ヶ原付近を境に分布が東西にわかれているといいます。朝鮮半島から渡来したヨーロッパ型は東日本に分布し、中国経由で渡来したアジア型は、西日本に定着しました。」

という(仝上)。

「日本へは中国を経て、ダイコンよりも古く渡来した。『日本書紀』には、持統天皇の7年3月に、天下に詔して、桑、紵(からむし)、梨、栗、蕪菁(あをな)などを植え、五穀の助けとするよう勧めるとの記載がある。平安時代の『新撰字鏡(しんせんじきょう)』や『本草和名(ほんぞうわみょう)』には阿乎奈(あをな)とあり、『倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』では蔓菁、和名阿乎菜、蔓菁根(かぶら)、加布良(かぶら)とある。『延喜式(えんぎしき)』には、根も葉も漬物にして供奉されたとの記載があり、種子は薬用にもされていたほか、栽培法の概要も記されており、平安中期にはかなり重要な野菜であったことがわかる。平安末期の『類聚名義抄(るいじゅうみょうぎしょう)』では、蔓菁根、蕪菁、蕪菁子(なたね)と使い分けの生じたことが知られる。江戸時代には『本朝食鑑』『和漢三才図会』『成形図説』『百姓伝記』『農業全書』『菜譜』などに品種名を伴った記載があり、当時すでに品種が分化していたことがわかる。」

とある(仝上)。とにかく古い。「鈴菜」は当て字と思われるが,「菘」(呉音スウ,漢音シュウ)の字は,

「会意兼形声。『艸+音符松(たてに長い)』」

とあり,

「たぅな,葉は蕪菁(かぶら)に似て,青白し」

とあり,

「よく寒に耐ふ,松の操あり,故に字松に从(したが)ふ」

ともある(字源)。「かぶ」そのものを指すのではないらしい。

800px-Brassica_rapa_turnip.jpg



「すずな」の語源は,

小菜(ささな)の義ならむ,

とある(大言海)。

「スズナの『スズ』は、『ササ(細小)』が変化した語と考えられているが、スズナ(カブ)が他の植物に比べ、圧倒的に小さいと言えるほどではないため難しい。スズナが『鈴菜』とも 表記されるところから考えれば、『鈴花菜(すずはなな)』の略。もしくは、『鈴』は楽器ではなく『錫』のことで、スズナが錫型の丸い容器に似ているところから付いた名sも考えられる」

とする(語源由来辞典 http://gogen-allguide.com/su/suzuna.html),「鈴」説を採るのが,

「鈴+菜」

とする『日本語源広辞典』である。

「神楽の鈴のような葉の菜」

という。しかし,「葉」を指しているので「鈴」ではないようである。さらに,

スズハナナ(鈴花菜)の略(日本語原学=林甕臣),

と四弁の菜の花のような「すずな」の花説を採るものもあって,「すずな」の語源説ははっきりしない。「鈴」説としても,葉あり,花あり,実あり,で確定しがたい。

神楽の鈴,

というなら,実のことだろうとは思うが,こんなふうに鈴なりになるわけではない。。

ise-miyachu_kc-kgs-00-000.jpg



「すずな」は,後世,

かぶら(蕪菁,蕪),

と呼ばれる。「かぶら」は,

かぶらな(蕪菜)の略,

とされる。「かぶらな」は,

「根莖菜(カブラナ)の義」

とあり(大言海),「かぶら」は,

根莖,

と当て,

カブは,頭の義。植物は根を頭とす,ラは意なき辞,

とする(大言海)。「かぶ」は,

「カブ(頭・株)と同根」

とする(岩波古語辞典)と重なる。「かぶ」と「かぶら」のつかいわけは,

「『かぶら』の女房詞『おかぶ』から変化した語か。類例に『なすび』の女房詞『おなす』から『なす』が出来た例がある」

とある(日本語源大辞典)ので,

かぶらな→かぶら→おかぶ→かぶ,

という転化してきたものらしい。ただ,「かぶ」については,かぶ(頭)説以外に,

カブは根の意(志不可起),

説があるが,やはり,「かぶり」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/463972279.html)で触れたように,

かぶ→かしら→こうべ→(つむり・かぶり・くび)→あたま,

と転じた「かぶ」頭説でいいのではないか。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:57| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください