2019年04月17日
すずしろ
「すずしろ」は,
蘿蔔,
清白,
等々と当てる。春の七草の一つ「すずしろ」である。
大根,
の意である。「蘿蔔(ラフク)」は,漢名である。
「蘿菔(ラフク)とも書く。蘿蔔は中国でロープと訓まれた。千切りにした大根を北京語でセンロープといった。それが訛って千六本といわれた」
とある(たべもの語源辞典)。原産地は,
「確定されていないが、地中海地方や中東と考えられている。紀元前2200年の古代エジプトで、今のハツカダイコンに近いものがピラミッド建設労働者の食料とされていたのが最古の栽培記録とされ、その後ユーラシアの各地へ伝わる。」
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%80%E3%82%A4%E3%82%B3%E3%83%B3)。とても古い。日本には,
「弥生時代には伝わっており、平安時代中期の『和名類聚抄』巻17菜蔬部には、園菜類として於保禰(おほね)が挙げられている。」(仝上)
古名は,
オオネ,
で,それに当てた,
大根,
の音読が「ダイコン」である。では,
スズシロ,
は何か。『大言海』は,
「菘代(スズナシロ)の義にて,蘿蔔を以て,あをな,すずなに代へ用ゐるより名ありしならむ」
とあるが,よく分からない。「すずほり(菹)」を見ると,
「菘鹽入(すずなしほり)の約にもあるか,菘代(スズナシロ)同じ」
とあり,
「鹽漬の菜。多くは,あをな,即ちスズナを用ゐる」
とある。つまり,
スズナ(蕪)に代えて,用いるから,菘代(スズナシロ),
ということらしい。ちょっと無理筋ではないか。大根は,大根であって,蕪の代用ではあるまい。しかし,
「スズシロノ『スズ』は『涼しい』の『スズ』,『シロ』は根の白さで,ずすがしく白い根を表した『涼白(すずしろ)』を語源とする説がある。漢字で『清白』と表記することや,単純で分かりやすいことから上記の説が有名であるが,『清白』は当て字で,『涼白』の意味が先にあったものか,『清白』が当てられ『涼白』がの説が考えられたか,その前後関係は不明である。『涼白』の説より,『スズナ(カブの別名)』に代わるものの意味で,『菘代(スズナシロ)』が語源と考えるほうがいいだろう」
とする(語源由来辞典 http://gogen-allguide.com/su/suzushiro.html)説もある。蕪の代用にされたかどうかは,事実の問題で,解釈の問題ではない。といって,
「スズシロの『スズ』は『涼しい』『涼む』の『すず』で清涼の意。『シロ』は根の白さで、すがすがしく白い根から『涼白(すずしろ)』が名前の由来とされる。」
という(由来・語源辞典 http://yain.jp/i/%E3%82%B9%E3%82%BA%E3%82%B7%E3%83%AD)のも,理屈が過ぎる。蕪だって白い。
この他に,
スズはスズナと同じく小さい意。シロは根が白いところから(滑稽雑誌),
もある。しかし,もともと。
おほね,
という言葉があった。「すずしろ」は後から付けた名ではないか。七草は,
「現在の7種は、1362年頃に書かれた『河海抄(かかいしょう)』(四辻善成による『源氏物語』の注釈書)の「芹、なづな、御行、はくべら、仏座、すずな、すずしろ、これぞ七種」が初見とされる(ただし、歌の作者は不詳とされている)。」
という(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%83%E8%8D%89)。
芹,なづな,御行,はくべら,仏座,すずな,すずしろ,
の語呂と,
芹,なづな,御行,はくべら,仏座,すずな,おほね,
では,語呂が悪い。
「日本では古くから七草を食す習慣が行われていたものの、特に古代において『七草』の詳細については記録によって違いが大きい。『延喜式』には餅がゆ(望がゆ)という名称で『七種粥』が登場し、かゆに入れていたのは米・粟・黍(きび)・稗(ひえ)・みの・胡麻・小豆の七種の穀物で、これとは別に一般官人には、米に小豆を入れただけの「御粥」が振舞われていた。この餅がゆは毎年1月15日に行われ、これを食すれば邪気を払えると考えられていた。なお、餅がゆの由来については不明な点が多いが、『小野宮年中行事』には弘仁主水式に既に記載されていたと記され、宇多天皇は自らが寛平年間に民間の風習を取り入れて宮中に導入したと記している(『宇多天皇宸記』寛平2年2月30日条)。この風習は『土佐日記』・『枕草子』にも登場する。」
とある。
米・粟・黍(きび)・稗(ひえ)・みの・胡麻・小豆,
の七種であったり,
「旧暦の正月(現在の1月~2月初旬ころ)に採れる野菜を入れるようになったが、その種類は諸説あり、また地方によっても異なっていた。」(仝上)
のであり,もともと,年初に雪の間から芽を出した草を摘む「若菜摘み」という風習に由来するが,これ自体,
「六朝時代の中国の『荊楚歳時記』に『人日』(人を殺さない日)である旧暦1月7日に、『七種菜羹』という7種類の野菜を入れた羹(あつもの、とろみのある汁物)を食べて無病を祈る習慣が記載されており、『四季物語』には『七種のみくさ集むること人日菜羹を和すれば一歳の病患を逃るると申ためし古き文に侍るとかや』とある。このことから今日行われている七草粥の風習は、中国の『七種菜羹』が日本において日本文化・日本の植生と習合することで生まれたものと考えられている。」(仝上)
何を入れるかを勝手に,
「芹、なづな、御行、はくべら、仏座、すずな、すずしろ、これぞ七種」
と確定させたとき,「おほね」を「すずしろ」と替えた。とすると,
蕪の代替,
と勝手に作者が決めたのかもしれない。白さでも,蕪も大根も区別がないのだから。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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