「春」(シュン)の字は,
「萅」の略体,
で,「萅」の字は,
「会意兼形声。屯(トン・チュン)は,生気が中にこもって,芽がおい出るさま。春はもと『艸+日+音符屯』で,地中に陽気がこもり,草木がはえ出る季節を示す。ずっしり重く,中に力がこもる意を含む」
とある(漢字源)。春とは,
「冬と夏の間の季節。現行の太陽暦では三月から五月まで。陰暦では正月から三月まで。また、二十四節気では立春から立夏の前日まで。天文学上では、春分から夏至(げし)の前日まで。」
とか(http://www.7key.jp/data/language/etymology/h/haru.html)。
三春,
といい,
初春 (孟春)は,旧暦1月、または、立春から啓蟄の前日まで,
仲春 (仲陽)は,旧暦2月、または、啓蟄から清明の前日まで,
晩春 (季春)は,旧暦3月、または、清明から立夏の前日まで,
とか(仝上)。和名抄には,
「正月,初春,二月,仲春,三月,暮春」
とある。
(ボッティチェルリ『春(プリマヴェーラ)』 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%98%A5より)
「春」の字を得て,やっと春を得た感じだが,和語「はる」の語源は,『日本語源広辞典』は,
説1は,水田に水をハル季節。これに対して田がアク季節がアキ,
説2は,木々の芽がハル季節で,通説。木の芽が膨れる季節の意,
説3は,田をホル(墾)時節。
説4は,ハエル(映)季節。自然のあらゆるものが映える季節,
と四説挙げ,
「農民の季節意識から」
説1を採る,とする。しかし,季節感が異なりはしまいか。さらに,「ハル」が「張る」なら,
「『張る』とする説は,アクセントの転から成立困難」
とする説もある(岩波古語辞典)。『大言海』は,
「萬物發(は)る侯なれば,云ふと云ふ」
とする(日本声母伝・和訓栞・日本語源=賀茂百樹)。「張る」には,「木の芽が張る」とする説もある(和句解・国語蟹心鈔・類聚名物考・言元梯・名言通・菊池俗語考・本朝辞源=宇田甘冥・日本古語大辞典=松岡静雄)が,「張る」については,否定説がある。
その他諸説,
春は晴天が多イトコロカラ,ハル(晴)の義(日本釈名・滑稽雑誌所引和訓義解・本朝辞源=宇田甘冥),
年が開ける意で,ハル(開)の義(東雅),
畑をハル(墾)の義(南留別志・言葉の根しらべの=鈴木潔子),
ヒエサル(冷去)の義(日本語原学=林甕臣),
ハラフと同系語ではらひすてて出現する意から(宮廷と民間=折口信夫),
年のハジマルの略か。また,葉ツハルの義か。またアラハルの義か(和句解),
ヒヤワラグ(日和)の約(和訓集説),
ハは含んだものがアラハルル意,ルは万物が生成して動き落ち着かぬ意(槙のいた屋),
Paru(春)のpaは光の義(神代史の新研究=白鳥庫吉),
があるが,中では,「晴れ」の語感に惹かれる。言語学者の阪倉篤義氏は,
春の語源は動詞の「晴る」だと推測している,
という(https://japanese.hix05.com/Language3/lang307.haru.html)。
「晴れる」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/459981482.html)で触れたように,「はる(晴る)」は,
「ハラ(原)と同根か。ふさがっていた障害となるものが無くなって広々となるさま」
とあり(岩波古語辞典),「はる」に,
墾,
治,
という字を当てるものは,
「開くの義,開墾の意,掘るに通ず」
晴,
霽,
の字を当てるものは,
「開くの義,履きとする意」
として,いずれも「開く」につながるのである(大言海)。その意味は,
パッと視界が開く,
晴れ晴れ,
という感じと似ているが,それは,
開いた(開墾した),
という含意がある。つまり,開く(開墾する)ことで,開けたという意味である。「はる(晴る・霽る)」に,
「開(はる)くの義。はきとする意」
とあるのに通ずる気がする。さらに,
開く,
と当てる「はるく」は,
晴れる,
意とある。つまり,「はれ」は,
晴,
墾,
原,
と同源なのである。
「空に障害物,雲,霧などがなく,ハレバレとした様」
とは,まさに,春ではあるまいか。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:春