「夏」は,天文学的には,
夏夏から立秋(の前日)まで,
太陽暦では,
6月から8月,
陰暦では,
4月から6月,
ということになるらしい。
孟夏,
仲夏,
季夏,
とも別ける。
う「夏」(漢音カ,呉音ゲ)の字は,
「象形。頭上に飾りをつけた大黄な面をかぶり,足をずらせて舞う人を描いたもの。仮面をつけるシャーマンの姿であろう。大きなおおいで下の物をカバーするとの意を含む。転じて,大きいの意となり,大民族を意味し,また草木が盛んに茂って大地をおおう季節をあらわす」
とある(漢字源)。
(歌川広重 名所江戸百景両国花火 https://mag.japaaan.com/archives/6973より)
「なつ」は,
「暑(アツ)の轉。冬の冷ゆるに対す。漢語熱(ネツ)と暗合す」
とある(大言海・日本釈名・滑稽雑誌所引和訓義解・南留別志・百草露・柴門和語類集)。
「アツ」を熱とするもの(東雅・和語私臆鈔・俚言集覧・名言通・日本語源=賀茂百樹),「アツ」を温とするもの(言元梯),「アツ」を熱(ネツ)とするもの(和語私臆鈔)等々があるが,『日本語源広辞典』は,
「暑いのアツが語源」
とし,
「ネツ,アツ,ナツ,同じ語源」
とする。「暑」「熱」「温」は同じとみていい。似たものに,
「ゲニアツキトキ(実に暑き季)は『ゲ』『キトキ』を脱落した省略形のニアツの部分が,ニア[n(i)a]の縮約でナツ(夏)になった」
がある(日本語の語源)。また,
アナアツ(噫暑)の義(日本語原学=林甕臣),
も,「暑い」説の変形と見られる。また,
「朝鮮語nyörɐm(夏)と同源」
とする(岩波古語辞典),外国語由来とする説もあり,
「朝鮮語の『nierym(夏)』,満州語の『niyengniyeri(春)』などアルタイで『若い』『新鮮な』の原義の語という同系」
とする(語源由来辞典)。しかし,どうだろう,もし季節感が,外国由来なら,夏だけが,外来語というのは変ではあるまいか。
この他には,
草木がナリイズル(造出)の義(類聚名義抄),
稲がナリタツ(成立)の義(古事記伝・菊池俗語考),
成の義(和訓栞),
稲がナリツク(生着)の義(和訓集説),
ナはナユルのナ,ツは助語(日本声母伝),
と植物と関わらせるもの,
ナデモノ(撫物)のナヅと関係のある語。接触によって穢れを落す,季節の祭祀から出た語か(続万葉集講義=折口信夫),
na-tuの複合語。naはudaru(煮)・iteru(凍)などと同語(神代史の新研究=白鳥庫吉),
等々があるが,
atu(あつ)→natu(なつ),
が自然に思える。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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