あつい


「あつい」は,

暑い,
熱い,

と当てる。「暑」(ショ)の字は,

「会意兼形声。者は,こんろで柴を燃やすさま。火力を集中する意を含み煮(にる)の原字。暑は『日+音符者』で,日光のあつさが集中すること」

とある。まさに「暑い」と当てたわけである。「熱」(呉音ネツ・ネチ,漢音セツ)の字は,

「形声。埶は,人がすわって植物を植え育てるさま。その發音を借りて音符としたのが熱の字。もと火が燃えてあついこと。燃の語尾がつまったことば」

とある。まさに「熱い」と当てたわけだ。

和語は,

あつ(暑)い(あつし),

あつ(熱)い(あつし),

と同源とされている。和語では,「暑い」と「熱い」は区別がない。

ryougoku_hanabi_10.jpg

(歌川貞房 東都両国夕涼之図 https://mag.japaaan.com/archives/6973より)


『大言海』も『岩波古語辞典』も語原を載せない。『日本語源広辞典』は,

「アツイは,『火熱のアツ』が語源」

とし,

「中国では,『太陽の暑さ』と,『火の熱さ』は区別しているのですが,日本では,古くは,区別していなかった」

とする。しかし,これでは,

アツ,

がなんだか分からない。『日本語源大辞典』は,「アツ」について,諸説挙げる。

まず,アツ=当説。

アツはアタル(当),シは退く(和句解),
アツシ(熱)と同じく,火にアツル(当)から出た形容詞(国語の語根とその分類=大島正健),
アツ(当)と関連があるか(語源辞典・形容詞篇=吉田金彦),

擬声説。

「喝」Atの語尾を添えて形容詞化したもの(日本語原学=与謝野寛)
手を火に付けて,アアと驚き,手をツツーと引くことから生じた(本朝辞源=宇田甘冥),
熱烈な熱火に対する自然の叫び声。転じて,暑気の強いこと,意思の烈しいこと,疎からず濃いことなどにアツという(日本語源=賀茂百樹),

外来説。

梵語か(和訓栞),

外来説には,

アイヌ語の「火(ape)」やタガログ語の「火(apoy)」またはインドネシア語の「火(api)」に関係がある,

とする説(https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q13147599383)もある。

その他,

アツシキ(厚如)の意。衣服を厚く感じるのは暑いから(名語記),

というのもあるが,「あつい(厚)」と「あつい(暑)」は,アクセントも異なり,別語とみられる(日本語源大辞典)。

ナツ(夏)の転(言元梯),

というのもあるが,「夏」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/465263567.html?1555702514)で触れたように,夏の語源説に「あつい」があり,これでは堂々巡りになる。

結局はっきりしないが,「火」が古くから人類にあるのであれば,

アツ,

は,意外と,

擬声,

なのではあるまいか。とすると,やはり,

火,

と関わっている,とみてよさそうに思えるが。

参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

この記事へのコメント