2019年04月29日
かしましい
「喧しい」は,
かまびすしい,
とも訓ませるが,
やかましい,
かしましい,
とも訓ませる。「かしましい」は,
喧しい,
囂しい,
と当てるが,どちらかというと,
姦しい,
とあてることが多い。「姦」(漢音カン,呉音ケン)の字は,
「会意。女三つからなるもので,みだらな行いを示す。道を干(オカ)す意を含む。奸(おかす)と同じ」
とあり,「姦」に,「かしまし」と,やかましい意に訓ませるのは,我が国だけのようである。
「かまびすしい」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/465403211.html?1556391840),
で触れたように,「かま(囂)し」に端を発しである。「かま(囂)し」は,
「カマは,騒がしき音なるべし,カヤカヤ(ガヤガヤ)と通ず(名義抄『硍,カマ,カマナリ(字鏡ニ,硍ハ石聲,雷聲,鐘聲なりとあり)』)。カマシカマシと重ねて,カマカマシとなり,略して,カシカマシとなり(わたかまる,わたまる),又略して,カシマシとなる。カマビスシとも云ふは,カマビスカシの略(名義抄『囂,ヒスカシ』),ヤカマシと云ふは,彌(いや)カマシの略なり」
と,その転訛を説明している。「やかましい」の項では,
「噫喧(あなかま)しの轉と云ふ,或は云ふ,彌喧(やかま)しの義」
としている。大言海説では,「やかまし」は,
噫喧(あなかま)し→やかまし,
彌囂(いやかま)し→彌喧(やかま)し→やかまし,
と,いずれも感嘆詞を付けた,いうことになる。ただ,「あな」は,
「広く喜怒哀楽の感情の高まりに発する声。多ぐ下に形容詞の語幹だけが来る。中世以後次第に,『あら』にとってかわられた」
とある(岩波古語辞典)が,「いや」は,感嘆詞もあるが,「彌」と当てた,
「イヨ(愈)の母音交替形。物ごとの状態が無限であるさま。転じて,物事の状態が甚だしく,激しくつのる意」
の,「弥増しに」とか「彌栄え」の「いや」のようである。「彌々」で,ますます,の意になる。
「やかなし」は,
「イヤ(彌)かまし(囂)の轉」(岩波古語辞典),
「アナ+カマシイの音韻変化」「アナ+カマビスの音韻変化シ」(日本語源広辞典),
と,イヤかアナかにわかれるが,何れかになるようである。「イヤ」は,
イヤカマシキ(彌囂)の略(俗語考),
ヤカマカシ(彌囂)の義(言元梯),
イヤカマビスシ(彌囂)の義(名言通・日本語原学=林甕臣),
ヤカマシ(彌喧)の義(俚言集覧・和訓栞),
「アナ」は,
アナカマシ(噫喧)の轉(和訓栞),
「ヤ」を呼びかけのヤとし,カマを喧とする(異説まちまち・勇魚鳥・国語の語根とその分類=大島正健),
もある。「かまし」を強調する意では,同じであろうか。これをみても,かまびすし,やかまし,は紛れあっているのがわかる。
「かしまし」は,
カマシカマシ→カマカマシ→カシカマシ→カシマシ,
とするのが大言海説であるが,『日本語源広辞典』も,
「カマ(喧し)+カマ(喧)+シ」
の変化とし,「カマシカマシ→カマカマシ」が逆になって,
カマカマシ→カマシカマシ→マ音脱落→カシガマシ→ガ音脱落→カシマシ,
とするが,大言海説の方が自然ではあるまいか。
カシガマシの略(菊池俗語考),
もあるので,
カマシカマシ→カシガマシ→カシマシ,
といった転訛なのではあるまいか。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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