「畳む」は,
折り返して重ねる,
積み重ねる,
という意味だが,それをメタファに,
心の中に秘めておく,
閉じて引き払う,
始末する(日葡辞典に,「イエ,また,シロヲタタム」と載る),
(重ねてつぼます)すぼめる,
いじめる,弱らせる,
(結末をつける意から)手ひどくいためつける,殺す,
等々と,意味の外延が広い。『江戸語大辞典』を見ると,
分散になる,破産する(百万両の身代今たたむ事なれば)天明元年・見徳一炊夢),
足腰立たぬようにやっつける,殺す。無頼の徒の用語(「エゝ面倒な,畳んで仕舞へ」文化十二年・婦身噓),
と載るのみで,
分解して片づける,
意が室町末期にある(「会所急ぎ畳み申すとの事候」天正十九年・北野社家日記)が,「破産する」という意は江戸期から使われ始めたのではないか。
「たたきのめす」という言い回しは,
無頼の徒の用語,
というあるように隠語的な用例のようである。
さて,「たたむ」は,
タタヌ,タタナハリと同根,
とある(岩波古語辞典)。「たた(畳)ぬ」は,
タタナヅク,タタナハルと同根,
とあり,
たたむ,
意である。「たたな(畳)はる」は,
タタヌ(畳)と同根,
で,
より合い重なる,
意であり,「たたな(畳)づく」は,
タタヌ(畳)と同根,
重なり合う,
意であり,「畳む」は,上代,
畳ぬ,
であり,それに関連して,
たたなづく,
たたなはる,
という言葉があったと見ることが出来る。
くりたたぬ(繰り畳ぬ),
という言葉があり,
引き寄せて畳む,
意である。「たたむ」は,
「タタ(叩と同根)+ミ・ム(折り重ね)」
とし,
叩いて折り重ねる,
意とする(日本語源広辞典)のは如何であろうか。「たた(叩)く」の「たた」は,
「タタは擬音語。クは擬音語・擬態語を承けて動詞を作る接尾語」
とある(岩波古語辞典)。「轟く」「そよぐ」「騒ぐ」など類語がある。積み重ねたり,折り重ねたりに,「叩く」は必要だろうか。別に項を改めるが,「たたく」の「た」は,「て」の古形で,
他の語の上について複合語をつくる,
とある(岩波古語辞典)。「手玉」「他力」「手枕」「手挟む」等々。「たたむ」は,
タワム(撓)の義(言元梯),
タタアム(平編)の約(国語本義),
タカタカメ(高々目)の義(名言通),
と,「畳む」状態を示す方がまだいいのではないか。あるいは,
たた,
は,
楯,
縦,
の意である。関係あるのだろか。
「畳(疂・疊・疉)」(呉音ジョウ,漢音チョウ)の字は,
「会意。『日三つ,または田三つ(いくつも重なること)+宜(たくさん重ねる)』で,平らにいく枚もかさなること。宜の中の部分はもと多の字であり,ここでは多いことを示す」
とある(漢字源)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
金田一京助・春彦監修『古語辞典』(三省堂)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:畳む