2019年05月01日
たたく
「たたく」は,
叩く,
敲く,
と当てる。「叩」(漢音コウ,呉音ク)の字は,
「形声。卩印は,人間の動作を示す。叩は『卩(人間のひざまずいた姿)+音符口』。扣(コウ)と通用する」
で(漢字源),「たたく」「ノックする」意だが,「ひれ伏して,頭で地面をたたくようにお辞儀する(「叩首(こうしゅ)」「叩頭(こうとう)」)意でもある。
「敲」(漢音コウ,呉音キョウ)の字は,
「形声。『攴(動物の記号)+音符高』」
で,「たたく」「ノックする」意である(仝上)。
叩は,聲也。たたくうつ,叩門,叩首と用ふ。論語「以杖叩其脛」。
敲は,たたきて音聲を出す。叩より重し。敲金,敲門と用ふ。
扣は,叩に通ず。晉書・張華傳「扣之則鳴矣」。
と,三者に微妙な違いがある(字源)。擬態を示すより,音を表すようである。
和語の「たた(叩)く」の「たた」も,
「タタは擬音語。クは擬音語・擬態語を承けて動詞を作る接尾語」
とある(岩波古語辞典)。これに似た言葉に,
轟く,
そよぐ,
騒ぐ,
などがある。「とどろく」は,擬音語,
とどろ(轟)にク(擬音語・擬態語をうけて動詞を作る接尾語),
どあるし,「そよぐ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/450600008.html)は,すでに触れたように,
サヤグの母韻交替形,
であり,
そよそよと音を立てる,
意であり,
ソヨ(擬態・そよそよ)+ぐ(動詞化)
であり(日本語源広辞典),
ソヨガス,ソヨフク,ソヨメクと同源,
とある。「そよ」は,
揺られて物の軽く触れ合うさま,
である。「たたく」の「た」は,「て」の古形で,
他の語の上について複合語をつくる,
とある(岩波古語辞典)。「手玉」「他力」「手枕」「手挟む」等々。「たたく」も,「手」の動作に絡んだ擬音と推測出来る。
「叩くは,『タ(手)+ク(ハタク)』が語源です。手ではたくように打つ意です。さらに,打つ,なぐる,やっつける,非難する,安くさせる,質問する,また憎まれ口をいう意にも使います。造語成分として複合語を作ります。例::タタキ上げ(長く苦労して一人前になった人),タタキ込む,…タタキ大工,タタキ出す,タタキつける,タタキなおす,…タタキのめす」
とある(日本語源広辞典)。「たたく」は,音から来て,
太鼓をたたく,
手をたたく,
金槌でたたく,
頭をたたく,
アジをたたく,
と,音から擬態へ転じていく。そこから,メタファとして,
意見をたたく,
師の門をたたく,
徹底的にたたく,
値をたたく,
となり,更に,そういう状態表現から,価値表現へと転じて,
大口をたたく,
無駄口をたたく,
等々へと広がっていく(大辞林)。『大言海』は,
「風のタタクとは,風の吹く意。水のタタクとは,水の打つ意。口をタタクとは,せわしくいいつづくる,物言ふを罵り云ふにも用ゐる。その説をタタクとは,その説を問ふ意」
と書く。「たたく」の意の範囲は広い。さらに「叩く」を,
はたく,
と訓ませると,微妙に意味がずれる。「はたく」と「たたく」とは,別語である。「はたく」は,
砕く,
撃く,
と当て,「うつ」意の,
頰をはたく,
以外に,
塵をはたく,
有り金をはたく,
の意があり(大辞林),もともと音ではなく,擬態であったことがわかる。それが価値表現へと転じると,「はたきさうな芝居」というように,
失敗する,
意になる。
る。「たたく」と「はたく」とが,意味が混ざり合っているのがわかる。しかし,「たたく」は,
興行する,一芝居打つ,
叩き売る,
意はある(江戸語大辞典)が,「はたき」の,
興行に失敗する,
意はない。それは,「たたく」は打つ(興行を打つ)と重なるが,「はたく」は,払う意が強いからと思われる。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください