2019年05月03日

さわぐ


「さわぐ」は,

騒ぐ,

と当てる。「騒」(ソウ)の字は,

「会意兼形声。蚤(ソウ)は『虫+爪』から成り,のみにさされてつめでいらいらと掻くことをあらわす。騒は『馬+音符蚤』で,馬が足掻くようにいらだつことをあらわす」

とある(漢字源)。さわぐ,意だが。いらだちや落着かないさまをも意味する。漢字には,「さわぐ」意の物がいくつかあり,

騒は,騒動する義。いそがはしく,みだる,騒乱と熟す,
擾は,かきみだす,義。煩也,亂也と註す。紛擾,煩擾と熟す,
噪は,鳥などの羣がり鳴くをいふ。蟬噪と熟す。譟と通ず,
譟は,人々のやかましくわめく義。羣呼煩擾也。また,聒(かまびすしい)也,擾也と註す。鼓譟と熟す,
躁は,落ち着かざる義,静の反なり。あがくとも訓む。軽躁と熟す,

と区別している(字源)。

和語「さわぐ」は,

「奈良時代にはサワクと清音。サワは擬態語。クはそれを動詞化する接尾語」

とある。「サワ」は,

さわさわ,

という擬態語と思われるが,今日,「さわさわ」は,

爽々,

と当て,

さっぱりとして気持ちいいさま,
すらすら,

という擬態語と,

騒々,

と当て,

騒がしく音を立てるさま,
者などが軽く触れて鳴る音,
不安なさま,落ち着かないさま,

の擬音語とがある。「擬音」としては「さわさわ」は,

騒がしい,

というより,

軽く触れる,

という,どちらかというと心地よい語感である。むしろ,

ざわざわ,

というところだろう。しかし,

「古くは,騒々しい音を示す用法(現代語の『ざわざわ』に当たる)や,落ち着かない様子を示す用法(現代語の『そわそわ』に当たる)もあった。『口大(くちおお)のさわさわに(佐和佐和邇)引き寄せ上げて(ざわざわと騒いで引き上げて)』(古事記)。『さわさわ』の『さわ』は『騒ぐ』の『さわ』と同じものであり,古い段階で右のような用法を持っていた」

とある(擬音語・擬態語辞典)。「さわさわ」は,

「音を云ふ語なり(喧喧(さやさや)と同趣),サワを活用して,サワグとなる。サヰサヰ(潮さゐ),サヱサヱとも云ふは音轉なり(聲(こゑ),聲(こわ)だか。据え,すわる)」

とあり(大言海),「さいさいし」が,

「さわさわの,さゐさゐと転じ,音便に,サイサイとなりたるが,活用したる語」

と,「さわさわ」と関わり,

「『万葉集』の『狭藍左謂(さゐさゐ)』,『佐恵佐恵(さゑさゑ)』などの『さゐ・さゑ』も『さわ』と語根を同じくするもので,母韻交替形である。」

とある(日本語源大辞典)。

因みに,「さやさや(喧喧)」は,

「サヤとのみも云ふ。重ねたる語。物の,相の,触るる音にて,喧(さや)ぐの語幹」

であり,「さやぐ(喧)」と動詞化すると,

さわさわと音をたてる,

意となる。

さわさわ→ざわざわ,

と擬音が意味をシフトしたために,その語感がぴんと来ないが,

「古くは,『さわさわ』も,騒々しい音や落ち着かない様子を示した例がある」

とあり(仝上),「さわさわ」で「ざわざわ」をも含意させていたように思える。上代,清音が多いのは,上代倭人は,濁音を苦手としたのかもしれない。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)

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