2019年05月06日
あに
「あに」は,
兄,
と当てる。「兄」(漢音ケイ,呉音キョウ)の字は,
「象形。兄は頭の大きい子を描いたもので,大きいの意を含む」
とある。
「あには『おとうと』の対」
とある(岩波古語辞典)ので,「おとうと」とセットで考える必要がある。「おとうと」は,
「オトヒトの転。『あに』『あね』の対。また,『このかみ』の対。同性のきょうだいの年下の者をいう」
とあり(仝上),「おとひと」の,
おと,
あるいは,
おとと,
とも言う。因みに,「このかみ」とは,
兄,
氏上,
と当て,
「子の上(かみ)の意」
で,
長男,
あるいは,
兄,姉,
を指す。
「おとと」は,
「おとうとの転。もと,同性のきょうだいの年下の者にいう。アニオトトのオトトは弟,アネオトトのオトトは妹をさす。中世以後は,もっぱら兄からみて弟にいうようになり,さらに姉から見て弟にもいうようになった」
とある(仝上)。で,「おと」は,
「『え(兄・姉)』の対。オトシ(落)・オトリ(劣)のオトと同根」
とある(仝上)。「え(兄・姉)」は,
「同母の子のうち年少者から見た同性の年長者。弟から見た兄,妹から見た姉」
を指す。つまり,下から見て,「え」という。「うへ(上,古くはウハ)」という意味ではあるまいか。『大言海』も,
「上(うへ)の約(貴(あて)も,上様(うはて)の約ならむ)」
としている。
逆に,年上見て,下のものを「おと」という。
「え」は,弟から見た兄,妹から見た姉
「おと」は,兄から見た弟,姉から見た妹,
となる。
因みに,
「セは,同母の兄弟姉妹のうち姉妹から見た兄弟で,イモは兄弟から見た姉妹で,年齢の上下を問わずにいう」
とある(仝上)。
「せ」は姉妹から見た兄・弟,
「イモ」は兄弟から見た姉・妹,
となる。
「『おとうと』の語は平安時代から見られるように なるが、男に限定して用いられるようになったのは江戸時代以降である」
という(語源由来辞典)。
とすると,「あに」を,
「吾兄(あのえ)の約転」
とする(大言海)のは,「え(兄)」の語源の説明になっていない。
エ(兄・姉)→アニ・アネ,
へとどう轉じたかの説明について,しかし「あに(兄)」の語源説は,
アは大の意(東雅・国語の語根とその分類=大島正健),
長子は大いに父に似るという義(関秘録),
カミの音転(日本釈名),
アト(後)ニの義。あとに弟を持つから(和句解),
アはアガムル,ニは陽(日本声母伝),
ワガニギシ(我和)の義(名言通),
アアとほめるほどにニコヤカ(和)なもの(本朝辞源=宇田甘冥),
アネから分派した語(日本古語大辞典=松岡静雄),
ア(阿)は親愛の冠詞,ニは爾(日本語原学=与謝野寛),
と,理屈をひねって,的を外している。「あね(姉)」の語源説は,
アニ(兄)の轉語(日本釈名・和訓栞),
アはア(吾)で接頭語。ネは美称(雅言考・言元梯・日本古語大辞典=松岡静雄・日本語源=賀茂百樹),
男女の区別を表すのに,ニとネの音を用いた(関秘録),
アニメ(兄女)の約(国語蟹心鈔・箋注和名抄・国語本義・名言通・大言海),
アは兄,ネはネル(寝る)(和句解),
ア(阿)は親愛の冠詞,ネ(嬭)は字書に姉,之を嬭と謂うとある(日本語原学=与謝野寛),
と,これもひねくり回すばかりで,珍説ばかりである。これなら,最初退けて取り上げるきがしなかったが,
「語源は中国語音『アン』です。an-が年上の意なのです。an-+イは,男性で兄,an-+エは,女性で姉を,表します」
と,中国由来とする説のほうが,まっとうに見える。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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