2019年05月09日

むなしい


「むなしい」は,

空しい,
虚しい,

と当てる。「空」(呉音クウ,漢音コウ)の字は,

「会意兼形声。工は,つきぬく意を含む。『穴(あな)+音符工(コウ・クウ)』で,つきぬけてあながあき,中になにもないことを示す」

とあり(漢字源),「空なり」と,空しい意と空っぽの意で,「中空」,実の対語。虚とは類似で,「空虚」。つろの意で,無とつながる。「虚」(漢音キョ,呉音コ)の字は,

「形声。丘(キュウ)は,両側におかがあり,中央にくぼんだ空地のあるさま。虚は『丘の原字(くぼみ)+印符虍(コ)』。虍(トラ)は直接の関係はない」

とあり(仝上),むなしい,空っぽの意で,実の対。「空虚」。むなしくする意で,「虚己。中身がない意で,「虚言」等々。

「空」と「虚」の使い分けは,

空は,有の反なり,からと譯す。空手・空林・空山・酒樽空と用ふ,
虚は,實また盈の反なり,中に物なきなり,虚心・虚舟と用ふ。荘子「虚而往,實而歸」,

とあり(字源),「空」も「虚」も空っぽの意であっても,

有る→無し,
盈る→から,

とでは微妙に意味がずれる。

和語「むなし(い)」は,

「空(ムナ)の活用,實無し,の義」

とある(大言海)。「むな(空)」は,

「實無(むな)の義」

とある(仝上)。

「膐(膂)完之空國(むなくに)」

という用例がある(神代紀),とか。だから,

実がない→空っぽ→何もない→むなしい→はかない,

と,「から(空)」という状態表現が,転じて価値表現へと意味を変化した,とみることができる。

「心の中が空っぽになることからや、『形だけで中身が無い』『充実していない』という状態に対して残念に思う気持ちが,『むなしい』には含まれるようになり,『わびしい』や『みじめ』といった意味を含んで用いられるようになってきた。古くは,,死んで心や魂が抜け去り,体だけになっているところかにら,『命がない』という意味でも『むなしい』は用いられた」

とある(語源由来辞典)。

空しくなる,

という言い回しで,「亡くなる」意を意味した。

「むな(實無)」は,

「み(身・実)」と「な(無)」から生じた,

語で、

みな(身・実無 )→むな(實無),

へと転訛し,

「むな」に形容詞を作る接尾語「し」が加わって「むなし」になり、口語化され て「むなしい」となった。

という(語源由来辞典,日本語源広辞典)ことである。

「むて(無手)」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/442786555.html)で触れたように,

みなし→むなし,

の転訛は,

「①『中になにも無い。からっぽである』という意味のミナシ(実無し)はムナシ(空し)に転音した。〈庫にムナシキ月なし〉(記・序)。
②転義して『事実無根である。あとがない』さまをいう。〈ムナシキ名をも空に立つかな〉(宇津保)。また,『無益である。無駄だ。かいがない』という意味を派生した。〈ムナシクて帰らむが,ねたかるべき〉(源氏・末摘花)。④さらに『無常である。はかない』という意味が生まれた。〈世の中はムナシキものと知る時し,いよよますますかなしかりけり〉(万葉)。⑤その転義として『命がない。死んだ』ことをいう。〈この人をムナシクしなしてむこと〉(源氏・夕顔)。上の二音ムナ(空・虚)を接頭語として名詞に冠らせた。人の乗っていない空車をムナグルマ(空車)といい,武器を持たないことをムナデ(空手)というのは②の語義を伝えている。
 ③の語義を伝えたムナ(空)は,『ナ』の子音が交替[nd]してムダ(徒。無駄)に転音した。ムダゴト(徒言)は『無益なことば。むだぐち』の意であり,ムダゴト(徒事)は『つまらないこと。徒労の行為』をいう」

と変化する(日本語の語源)。他にも,

モノナシ(物旡)の義(言元梯),
ムは圧定める,ナシは無の擬音(国語本義),
マナシ(真無)の転(和語私臆鈔),

等々あるが,語呂合わせに過ぎない。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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