「子」は,

児(兒),

とも当てるが,鳥の子の意で,

卵,

とも当てる(岩波古語辞典)。

大和の国に雁卵を産と汝は聞かすや(古事記)

という用例がある。

「たまきはる 内の朝臣(あそ) 汝(な)こそは 世の長人(ながびと) そらみつ 倭の国に 雁卵生(かりこむ)と聞くや」

と天皇が問うのに対して,建内宿禰命(たけうちのすくねのみこと)が,

「高光る 日の御子 諾(うべ)しこそ 問ひたまへ まこそに 問ひたまへ 吾こそは 世の長人 そらみつ 倭の国に 雁卵生(かりこむ)と 未だ聞かず」

と答えた,というのである。「雁卵生」を「かりこむ」と訓ませた。伊勢物語にも,

「鳥の子を十づつ十は重ぬとも人の心をいかが頼まん」(伊勢物語)

の,「子」も「卵」の意である。

「子」(呉音漢音シ,唐音ス)の字は,

「象形。子の原字に二つあり,一つは小さい子どもを描いたもの。もう一つは子どもの頭髪がどんどん伸びるさまを示し,おもに十二支の子(ネ)の場合に用いた。のちこの二つは混同して子と書かれる。」

とあり(漢字源),「児(兒)」(漢音ジ,呉音ニ)の字は,

「象形。上部に頭蓋の上部がまだあわさらない幼児の頭を描き,下に人体の形を添えたもの」

とあり(仝上),「小兒の頭囟(シン)未だ合はざるに象る」ともある(字源)。「囟」は,

「泉門(せんもん)。胎児や新生児の頭蓋骨にある、前後左右の骨の間にある隙間。成長するにつれて骨が接合していくため、隙間は無くなる。ひよめき。おどりこ。」

の意である(https://kanji.jitenon.jp/kanjio/7413.html)。「小兒の頭上の微かに動く所,頭會の脳蓋,頂門」(字源)ともあり,

「(ひよめき)は、幼児の頭の骨がまだ完全に縫合し終わらない形。思は、心臓の動き(脈拍)につれてヒクヒクとひよめきが動くこと。脳をおおっている頭蓋骨が心臓の鼓動でゆれるさま」

である(https://blog.goo.ne.jp/ishiseiji/e/02e8baeba431b3dd3c289b67212240e5)。実によく見ている。

「子」は,

親に対して子,

であると同時に,

「親が子を呼びしに起こりて,自らも呼びし語なるべし,男之子(オノコ),男子(ナムシ)の子(シ)なり。左傳,昭公十二年,注『子,男子之通称也』。白虎通,號『子者,丈夫之通称也』。和漢暗合あり」

というように「男の通称」であるが,「女(をみな)も子と云ふこと,特に多し。女之子(メノコ),女子(ニョシ)の子(シ)なり」ともあり,男女ともに使う。「親」に対して「子」という意味で,「子」は,様々なメタファとしての意味は多い。

「子」の語源は,

「小(コ)と同源か」

とあり(広辞苑第5版),

「小の義にて,稚子(チゴ)より起れる語なるべし」

とある(大言海)。『語源由来辞典』も,

「『こまやか( 細小)』の意味とする説や、胎内で凝りて子となることから『こる(凝る)』の意味とする説、『小』の意味など諸説ある。」(http://gogen-allguide.com/ko/ko.html

とした上で,

「『小』の意味とする説が妥当である。」

とする。意味からみでも,そんなところではないか。他には,

胎内でコリ(凝)て子となるところから,コル(凝)の義(関秘録・和訓栞),
キコリ(気凝)の義(日本語原学=林甕臣),
「孩」(カイ,ガイ ちのみご)の古音(ko)から(日本語原学=与謝野寛)

等々あるが,理屈に過ぎた説は大概,無理筋と思う。意味から見ても,

小,

から来ているのだとみていい。

「コ(小さいもの)」

であり,

「子,小,粉は同源」(日本語源広辞典)

としていいとは思うが,しかし接頭語「小」は当て字,「こ」はどこから来たのか。

小石,
小鳥,
小山,

等々,「ちいさい」ことを「こ」といったということは確かだ。
なお,「小」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/445760046.html?1557427588)については触れたことがある。

因みに,「小」(ショウ)の字は,

「象形。中心の丨線の両脇に点々をつけ,棒を削って小さく細く削ぐさまを描いたもの」

とある(漢字源)。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
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