「親」は,

祖,

とも当てる。

子の対,

である。「親」(シン)の字は,

「会意兼形声。辛(シン)は,はだ身を刺す鋭いナイフを描いた象形文字。親の左側は,薪(シン)の原字で,木をナイフで切ったなま木。親はそれを音符とし,見を加えた字で,ナイフで身を切るように身近に接していること。じかの刺激を受ける間柄の意」

とあり(漢字源),「おや(親)」のであるが,疎の対で,親しむ意でもある。「祖」(ソ)の字は,

「会意兼形声。且(ショ)は,物を重ねたさまを描いた象形文字。祖は『示(祭壇)+音符且』で,世代の重なった先祖のこと。幾重にも重なる意を含む。先祖は祀られるので,示へんを加えた」

とある(仝上)。祖父の意である。「おや」は,

「古くは、父・母に限らず、祖父母・曾祖父母など祖先の 総称として、『おや』という語は用いられていた。」

とある(語源由来辞典)ので,「祖」の字も当てたのに違いない。

「おや」の語源は,日本語源広辞典は,二説挙げる。

説1は,「敬うのウヤ・イヤ」。敬うべき人の意,
説2は,「老ゆ+や,大ゆ+や,の変化」。老いた人の意,

「敬う」は,少し理屈が勝ち過ぎている気がする。大言海は,

「老(オイ)・大(オホ)と通ず,子(コ)・小(コ)に対す」

とし,語源由来辞典も,

「『子(こ)』『小(こ)』に対し、『老(おゆ)』『大(おお)』と関連付ける説が有力とされている」

とする(http://gogen-allguide.com/o/oya.html)。

『岩波古語辞典』も,

「オイ(老)と同根」

とし,「おい(老)」で,

「オヨシヲ(老男)・オヨスゲなどのオヨと同根。オヤ(親)も同根」

としている。ただ,大言海は,「おゆ(老)」の語源を,

「生(お)ふと通づるか」

としているが,日本語源広辞典は,

「老(お)ゆ」の語源を,

「大+ゆ(自然に経過してそうなる)」

としている。「おや(親)」と「おゆ(老)」が「大(オホ)」と重なっている。

hokusai127_main.jpg

(葛飾北斎・游亀 親子三大を表すhttps://www.adachi-hanga.com/ukiyo-e/items/hokusai127/より)


「おや」の語源諸説は,

オユ(老)から起こった語か(和字正濫鈔・内珠庵雑記・和訓栞・大言海・国語学通論=金沢庄三郎・熟語構成法から観察した語原論の断簡=折口信夫),

が多数派,その他は,

オイテヤシナフ(老養)意か(日本釈名),
ヲヤ(老養)の義(柴門和語類集),
ヲホヤケの中略(和句解),
オホヤ(大家)の義(名言通),
ウヨ(上代)の転呼(日本古語大辞典=松岡静雄),
イヤ,ウヤマフなどに通じ,目下の者が発する応答の声から生じた語か(親方・子方=柳田國男),
父および老年の男子に対する親愛の称呼である「阿爺」から転じて両親の義になった(日本語原学=与謝野寛),

どう見ても,理屈が勝る説は自然ではない。「おゆ(老)」の転訛,

oyu→oya,

が,「大(オホ)」にも通じ,自然ではあるまいか。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
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書評
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