2019年05月12日


「髪」は,

上の意か(岩波古語辞典),
「上(かみ)」の意からという(デジタル大辞泉),

と,「上」とからませる説が大勢のようです。

「上の毛」の下略で「かみ」なったと考えられる(語源由来辞典・名言通・日本語原学=林甕臣),
上部が語源です。上にあるもの,つまり川上,頭,髪,守,裃など,共通語源のようです。頭の毛は,上の毛が語源です(日本語源広辞典),
身体の上部にあるところから,カミ(上)の義(和句解・日本釈名・箋注和名抄・和訓栞・言葉の根しらべの=鈴木潔子),

等々。どうやら,ただ身体の上部にあるというだげではなく,

「『脇毛』や『胸毛』など,場所によって毛を区別する場合,『頭の毛』とか『髪の毛』といった表現がされ,『髪』が身体の部分とされることも『上部』との関係が考えられる。」(語源由来辞典)

という考え方のようである。ただ,『大言海』は,「かみ」に,

上,
頭,
髪,

を当て,共に,

「頭(かぶ)と通ず」

とする。「あたま」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/454155971.html)で触れたように,「あたま」は,

かぶ→かしら→こうべ→(つむり・かぶり・くび)→あたま,

と変遷したので,「かみ(頭)」「かみ(髪)」が,「かぶ」の転訛というのは不思議ではないが,「かぶ」自体が,「かみ」から転訛したのではあるまいか。『日本語源広辞典』のいう,

川上,頭,髪,守,

が同源というのは,意味があるように思える。「守」は,

「長官(かみ)」

であり,四等官(しとうかん)制の,

長官(かみ)・次官(すけ)・判官(じょう)・主典(さかん),

の四等官のトップであり,その「かみ」も,「長官」(かみ)の中でも,

(官司)長官(かみ)
神祇官  伯
太政官  (太政大臣)
左大臣
右大臣
省    卿
職    大夫
寮    頭
司    正
(中略)
国司   守

等々(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%9B%E7%AD%89%E5%AE%98)と「頭」「守」も同じ「かみ」と訓ませる。この「かみ」は,トップという意味ではあるまいか。とすると,「かみ」は「上」である。

「髪」の語源説には,

カを上を意味する原語で,原型においては日の意味。ミは身の義。あるいはカミケ(頭毛)の略(日本古語大辞典=松岡静雄),
ケム(毛群)の義(言元梯),
「鬟」の別音kamの転(日本語原学=与謝野寛),

等々もあるが,いずれも,少しこねくり回し過ぎである。「髪」は,「上」で,音からも意味からも自然ではあるまいか。

「『髪の毛』という表現には,軸となる語が『髪』と『毛』の二通りある。それは,他の毛と区別するために『毛』を軸とした『髪の毛』と,『かみ』という音には『上』『神』『紙』などの語もあり,それらと区別するために『かみ』を軸とした表現である『髪の毛』である」

という説明(語源由来辞典)は,会話での区別を指しているものと思われる。文字を持たない時,同音だからという分けたが,少し変だ。区別するなら同音を鮭,「頭の毛」と別語をもって言い換えればいい。屁理屈に思える。むしろ「上の毛」といったものが,漢字を知ってから,「髪」を当てて,重複した言い回しになっただけではあるまいか。

「かみ」が「上」となると,「神」と重なりそうだが,カミ(http://ppnetwork.seesaa.net/article/446980286.html)で触れたようにに,江戸時代に発見された上代特殊仮名遣によると,

「神」はミが乙類 (kamï)
「上」はミが甲類 (kami)

と音が異なっており,,

「カミ(上)からカミ(神)というとする語源説は成立し難い」

とされる(岩波古語辞典)。語源を異にするとは思うが,

「神」の「かみ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/436635355.html)も,
「上」の「かみ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/446980286.html)も,

意味は近接しながら,ともに結局語源ははっきりしない。しかし,

「『神 (kamï)』と『上 (kami)』音の類似は確かであり、何らかの母音変化が起こった」

とする説もある。文脈依存の和語の語源は,多く擬態語・擬音語か,状態を表現するという意味から見れば,

カミ・シモ,

は,両者の位置関係(始源か末か)を,

ウエ・シタ,

は,物の位置関係(上側か下側か)を,

それぞれ示したに違いない。ウエとカミの区別は大事だったに違いない。その意味で,「髪」は,

カミ(上),

に違いない。ちなみに,「髪(髮)」(漢音ハツ,呉音ホチ)は,

「会意兼形声。髪の下部の犮(ハツ)は,はねる,ばらばらにひらくの意を含む。髪はそれを音符とし,髟(かみの毛)を加えた字で,発散するようにひらくかみの毛」

とある(漢字源)。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:
posted by Toshi at 03:35| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください