「いのち」は,
命,
と当てる。「命」(漢音メイ,呉音ミョウ)は,
「会意。『あつめるしるし+人+口』。人々を集めて口で意向を表明し伝えるさまを示す。心意を口や音声で外にあらわす意を含む。特に神や君主が意向を表明すること。転じて命令の意となる。」
とあり(漢字源),「いのち」の意味はあるが,「天命」の意で,天からの使命,運命の意で,「命令」色が強い。
「会意文字です(口+令)。『冠』の象形と『口』の象形と『ひざまずく人』の象形から神意を聞く人を表し、『いいつける』、『(神から与えられた)いのち』を意味する『命』という漢字が成り立ちました。」
という説明(https://okjiten.jp/kanji51.html),あるいは,
「『会意』。『人』(集める)+『口』(神託)+『卩』(人)、人が集まって神託を受けるの意。又は、『令』(人が跪いて聞く)+『口(神器)』の意(白川)。」
という説明(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%91%BD)が,その意味からみて,分かりやすい。
(殷・甲骨文字「命」 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%91%BDより)
さて,「いのち」の「ち」は,「ち(血)」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/465705576.html?1557945045)で触れたように,
「古形としてツ(血)が考えられる。身体内から出る液体として,チ・ツ(血),チ(乳),ツ(唾)に共通したtを認めることが出来るので,これらを同源とみることができる。また,血・乳とも,人(子供)・生命にとって重要な生命力の源であるからそれらを,さらにチ(霊)と同源と見なすことも可能であろう」(日本語源大辞典)
と,「いのち」の「ち」は,
いかづち(厳(いか)つ霊(ち)。つは連体助詞),
をろち(尾呂霊。大蛇),
のつち(野之霊。野槌),
ミヅチ(水霊)
等々の「ち」と重なり,「チ(血)」は,
「チは,生命のもと」
とし,
イノチ,
と同根,とする(日本語源広辞典)。「いのち」の「いの」は,何か。
「イは息(いき),チは勢力,したがって『息の勢い』が原義。古代人は,生きる根源の力を目に見えない働きと見たらしい。だから,イノチも,きめられた運命・寿命・生涯・一生と解すべきものが少なくない」
とする岩波古語辞典は「ち(霊)」を,
「自然物のもつはげしい力・威力をあらわす語。複合語に用いられる」
とし,
いのち(命),
をろち(大蛇),
いかづち(雷),
と通じるとした。大言海は,「ち(霊)」を,
「持ちの約」
として,
「神,人の霊(タマ),又,徳を称へ賛(ほ)めて云ふ語。野之霊(ノツチ,野槌),尾呂霊(ヲロチ,蛇)などの類の如し。チの轉じて,ミとなることあり,海之霊(ワタツミ,海神)の如し。又,轉じて,ビとなるこあり,高皇産霊(タカミムスビ),神皇産霊(カムミムスビ)の如し」
とし,「いのち」は,やはり,
「息(い)の内(うち)の約」
と「息」とする。「息」説は多い。
イノウチ(息内)・イノチ(気内)の義(和訓栞・音幻論=幸田露伴)
イキウチ(息内)の約(名言通),
いのちの「い」が「生く(いく)」「息吹く(いぶく)」の「い」で「息」を意味し、「ち」は「霊」の 意味とした、生存の根源の霊力の意味とする(語源由来辞典),
イ(息)+ノ(連体助詞)+チ(霊)(古代日本語文法の成立の研究=山口佳紀),
イ(息)のノチ(後)(続上代特殊仮名音義=森重敏),
イノチ(息路)の義か(俚言集覧),
イノチ(息続)の意(日本語源=賀茂百樹),
イノチ(息力)の義か(和字正濫鈔),
イノチ(息霊)の意(日本古語大辞典=松岡静雄),
「イノチ(息+内+霊)」が有力。イキ,イキル,イク,イノチは同根(日本語源広辞典),
等々がある。「生」に絡ませた,
イキノウチ(生内)の約(和句解・日本釈名・古語類韻=堀秀成),
イノチ(生霊)の義(国語の語根とその分類=大島正健),
イキネウチ(生性内)の約(日本語原学=林甕臣),
とあるが,「いきる(生)」「いく(生)」は,
イキ(息)と同根,
とあり,「いく(生)」は,
イキ(息),
重なるので,「息」も「生」も,どちらともありえるようである。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:いのち