2019年05月22日


そらみつ,

の「そら」である。

「かくの如名に負(お)はむと 蘇良美都(ソラミツ) 大和の国を 蜻蛉島(あきづしま)とふ」(古事記)
「虚見津(そらみつ) 大和の国は おしなべて 吾こそ居れ しきなべて 吾こそいませ」(万葉集)

と,「大和」にかかる枕詞で,後に,

「天爾満(そらニみつ) 大和をおきて 青丹よし 奈良山を越え」(万葉集)

と,

そらみつ→そらにみつ,

と替えられた。この歌は、

「作者の柿本人麻呂が、古来使われていた『大和』にかかる枕詞『そらみつ』を『そらにみつ』と五音に整音化し、さらに『空に満つ山』というところから『山(やま)』と同音を含む『大和』にかかると解釈したものといわれる。
古来の枕詞『そらみつ』を『そらにみつ』と用いたのは柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)とされる。」

とある(精選版 日本国語大辞典)。この「そらみつ」の語義およびかかり方

(イ)空にそそり立ち満つ山の意からとする説、
(ロ)『空御津』の意で大和は饒速日命が天磐船で空から降った津(港)であるからとする説、

等々諸説あるが、いずれも確実ではない,とされる(仝上)。

「日本書紀に,ニギハヤヒノミコトが天の磐船に乗って空から見下し,天下ったので,『空見つ大和』といったという起源説話がある」

とある(岩波古語辞典)のは,(ロ)説である。

その「そら」に当てた「空」(漢音コウ,呉音クウ)の字は,

「会意兼形声。工は,突きぬく意を含む。『穴(あな)+音符工(コウ,クウ)』で,突き抜けて穴が開き,中に何もないことを示す」

とある(漢字源)。「中空」「空虚」の「空」である。「実」の対である。同じく「そら」に当てる字に,「宙」(漢音チュウ,呉音ジュウ)がある。こちらは,

「形声。『宀(やね)+音符由(ユウ)』もと家の上をおおうむねばしらや,舟の上をおおう屋根のこと,転じて世界をおおう空間を,宇,時間の広がりを宙という。また,軸と同系と考え,地軸を中心に大地をおおう屋根と説いてもよい」

とある(仝上)。むしろ,「宙」が,

そら,

の意で,「この世界をあまねくおおう屋根」「宇宙(世界をおおう時間・空間の広がり)」の意である。我が国では,「空中」の意で,「宙返り」のように,地を離れる,という矮小化した意味になる。

さて,和語「そら」は,

swara→古代日本語 sora

とあり(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%81%9D%E3%82%89),古事記に,

「腰泥(なづ)む蘇良(ソラ)は行かず足よ行くな」

とあり,「そら」は,

「天と地との間の空漠とした広がり・空間。アマ・アメ(天)が天界をさし,神々の国という意味をこめていたのに対し,何にも属さず,何ものも内に含まない部分の意。転じて,虚脱した感情。さらに転じて,実意のない,あてにならぬ,いつわりの意」

という意味の幅をもつ(岩波古語辞典)。大言海は,

「反りて見る義。内(ウチラ)に対して,外(ソラ)か。ラは添えたる辞」

とするのは,

ソトの延長であるところから,ソトのトをラに代えて名としたもの(国語の語根とその分類=大島正健),

と重なる。

「上空が穹窿状をなしてそっていることから」

とする(広辞苑)のは,

のけぞらないと見えない義(和句解),

の意味だろう。

梵語に,修羅(スラ sura),訳して,非天。舊譯,阿修羅,新譯,阿蘇羅と云ふ,

とある(大言海)の梵語説をとるものもある(日本声母伝・嘉良喜随筆)。

ゾウラ(背裏),またはソハラ(虚原)の義(日本語原学=林甕臣),
ソラ(虚)の義(言元梯),
間隙の意のスの転ソに語尾ラをつけたもの(神代史の新研究=白鳥庫吉),

等々。どうも決定打はない。「内」「外」とは,ちょっと俯瞰する視点に過ぎる。

天→空→地,

という全体の構図から見れば,内外は,外れるのではないか。それなら,「虚」と重ねた方が感覚的には合うのではないか。漢字では,

空は有の反,
虚は實また盈の反,
曠はひろくしてむなしい,

と使い分ける。天と地の間,という意味なら,「虚」だが,それは意味であって,「そら」の語の説明にはならない。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
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書評
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