2019年06月02日

あかつき


「あかつき」は,

暁,

と当てる。「暁(曉)」(慣音ギョウ,漢・呉音キョウ)の字は,

「形声。『日+音符堯(ギョウ)』で,東の空がしらむこと。明白にすることから,さとる意を派生した」

とあり(漢字源),あかつき,の意の他に,さとる,明らかになる,意(動詞)をもつ。

「あかつき」は,上代は,

あかとき(明時),

で,中古以後,

あかつき,

となり,今日に至っている。もともと,古代の夜の時間を,

ユウベ→ヨヒ→ヨナカ→アカツキ→アシタ,

という区分した中の「あかつき」(因みに,ヒルは,アサ→ヒル→ユウ)で,

「夜が明けようとして,まだ暗いうち」

を指し(岩波古語辞典),

「ヨヒに女の家に通って来て泊まった男が,女の許を離れて自分の家へ帰る刻限。夜の白んでくるころはアケボノという」

とする(仝上)が,

「明ける一歩手前の頃をいう『しののめ』,空が薄明るくなる頃をいう『あけぼの』が,中古にできたため,次第にそれらと混同されるようになった」

とある(日本語源大辞典)。「アシタ」は,「ヒル」の時間帯を指す,

アサ→ヒル→ユウ,

の「アシタ」と同時だが,「アシタ」は,

「『夜が明けて』という気持ちが常に常についている点でアサと相違する。夜が中心であるから,夜中に何か事があっての明けの朝という意に使う。従ってアクルアシタ(翌朝)ということが多く,そこから中世以後に,アシタは明日の意味へと変化し始めた」

とあるので,

アカツキ→アシタ,

の幅は結構ある。和語には,未明,早朝を示す言葉が,「あかさき」の他にもたくさんある。

しののめ,
あけぼの,
あさぼらけ,
あさまだき,
ありあけ,

等々。「ありあけ」は,

月がまだありながら,夜か明けてくるころ,

だから,かなり幅があるが,

陰暦十五日以後の,特に,二十日以後という限定された時期の夜明けを指すが,かなり幅広い。

「あげぼの」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/444607999.html)はすでに触れたが,「あけぼの」の「ほの」は「ほのかの」「ほの」で,

「夜明けの空が明るんできた時。夜がほのぼのと明け始めるころ」

で,「あさぼらけ」と同義とある。「あさぼらけ」は,

「朝がほんのりと明けてくる頃」

で,

あげぼの,
しののめ,

と重なる。しかし幅のあると明け方を,古代人は,厳密に区別していたはずで,

「しののめ」は,

「一説に,『め』は原始的住居の明り取りの役目を果たしていた網代様(あじろよう)の粗い編み目のことで,篠竹を材料として作られた『め』が『篠の目』と呼ばれた。これが明り取りそのものの意となり,転じて夜明けの薄明かり,さらに夜明けそのものの意になったとする」

とし,

「東の空がわずかに明るくなる頃」

の意で,転じて,

「明け方に,東の空にたなびく雲」

の意とある(『広辞苑』)。

「あさまだき」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/442024908.html)は,すでに触れたように,

「マダ(未)・マダシ(未)と同根か」

とあり(岩波古語辞典),

「早くも,時もいたらないのに」

という意味が載る。どうも何かの基準からみて,ということは,夜明けを基点として,まだそこに至らないのに,既にうっすらと明けてきた,という含意のように見受けられる。

「朝+マダキ(まだその時期が来ないうちに)」(日本語源広辞典)

で,未明を指す,とあるので,極端に言うと,まだ日が昇ってこないうちに,早々と明るくなってきた,というニュアンスであろうか。大言海には,

「マダキは,急ぐの意の,マダク(噪急)の連用形」

とあり,「またぐ」は,

「俟ち撃つ,待ち取る,などの待ち受くる意の,待つ,の延か」

とあり,

「期(とき)をまちわびて急ぐ」

意とあるので,夜明けはまだか,まだか,と待ちわびているのに,朝はまだ来ない,

という意になる。

「暁」と「あけぼの」は,

「『曙』は明るんできたとき。『暁』は、古くは、まだ暗いううら明け方にかけてのことで、『曙』より時間の幅が広い」

とある(http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1145636881)。とすると,

アカツキ→アシタ,

の時間幅全体を「アカツキ」とみると,その時間幅を,細かく分けると,

あさまだき,
あけぼの,
あさぼらけ,
しののめ,

はどういう順序なのだろうか。「あけぼの」について,

「ほのぼのと夜が明けはじめるころ。『朝ぼらけ』より時間的に少し前をさす。」

とあり(デジタル大辞泉),「あさぼらけ」は,

「夜のほのぼのと明けるころ。夜明け方。『あけぼの』より少し明るくなったころをいうか。」

とあるので,

あけぼの→あさぼらけ,

ということになるが,

「アサノホノアケ(朝仄明け)は,ノア(n[o]a)の縮約でアサホナケになり,『ナ』が子音交替(nr)をとげてアサボラケ(朝朗け)になった。『朝,ほのぼのと明るくなったころ…』の意である。」

とする(日本語の語源)ので,「朝ぼらけ」「あけぼの」はほとんど近接しているのだろう。

「しののめ」は,『語源辞典』は,

「シノ(篠竹)+目」

で,「篠竹の目の間から白み始める」意となる。

「古代の住居では、明り取りの役目をしていた粗い網目の部分を『め(目)』といい、篠竹が材料として使われていたため『篠の目』と呼ばれた。この『篠の目』が『明り取り』そのものも意味するようになり、転じて『夜明けの薄明かり』や『夜明け』も『しののめ』というようになった。」

とある(語源由来辞典)が,人が夜が明けているのに気づいたのを言っているのであって,その時刻が,「あけぼの」なのか「あさぼらけ」なのか,の区別はつかない。しかし,夜明けに気づいて以降の変化の違いだとするなら,

しののめ→あけぼの→あさぼらけ,

ということになる。「あさまだき」は,その前になるので,

あさまだき→あけぼの→あさぼらけ,

という暫定順序となる。

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参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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